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内緒(8)
「れもーん、寂しかったぁ!?
俺は離れ過ぎて泣きそうだったよぉ!」
ぎゅうぎゅう抱きつかれて嬉しいけど、何だか変。
んー、お酒と煙草臭いぞ。
いつもより甘えたのご機嫌さんになってる。ということは、酔ってるよね!?
ああいう席ではセーブしてるのに、こんなになってるのは…飲まされた?
でも今日は確か“綺麗な”飲み方をする掛川社長のはず。
無理強いしないし酔って絡んだりしない、安心して接待できる数少ない老紳士なんだけどな。
「満さん、お水持ってくるね。」
「やーだー!檸檬と一緒にいたーい!」
「お水持ってくるだけ。すぐ戻ってくるから。
ね?いい子で待ってて。」
うー…と唸る満さんの腕をやっとこさ解いて、グラスにミネラルウォーターを注ぎ、隣に座った。
「はい。溢さないようにね。」
受け取って一気飲みした満さんは、にへらにへらと笑っている。
珍しい。完全に酔っ払いだ。
何があったんだろう。
「満さん、今夜は掛川社長とご一緒だったんですよね?
お元気でらっしゃいましたか?」
「うん!相変わらず矍鑠 として、まだまだ現役バリバリだよ。
御大 に負けないように頑張らないとな。
『結婚おめでとう!』ってお祝いをいただいたんだ。
ほら!」
胸元から取り出したのは、薄い包装紙。
「凄いぞぉ!数年先まで予約の取れない温泉旅館一泊2日のペアチケット!
『ぜひ愛夫 とのんびり行っておいで』ってさ。
…『聞いた時は吃驚したけど、最近の君を見聞きするとそれで良かったんだな、って思うようになったんだ。
困ったことがあれば何でも言ってきなさい、力になるから。』って仰って……
檸檬、俺は世間に認められるようにもっともっと頑張るよ!」
そうか…だからお酒も進んじゃったんだね。
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