179 / 371

内緒(9)

満さんは、くふくふ、と嬉しそうに笑いながら、俺の首筋に鼻を擦り付けては匂いを嗅いだり、俺を抱きしめてゆらゆら左右に揺れてみたり。 酔うとこんなになるんだったっけ? ふふっ、かわいいじゃん! 甘える大虎。写メりたい。 取り敢えず寝かせなきゃ、と思った瞬間、ごろんとひっくり返されてのし掛かられた。 「…満さん、重たい…」 「ははっ、ごめんごめん。 じゃあ…」 「うわぁっ!」 視界が反転した。 俺は満さんの身体の上に乗っけられていた。 「満さん、離してよぉ!」 「だーめ。檸檬は俺のものだから、逃さなーい!」 「逃げないし、満さんの服が皺になるから離してっ!」 「やーだ。クリーニングしたら直るし。 ……檸檬、暫くこのままでいて。」 きゅ、と力を込めてくるから、逃げ切れなくて諦めてしたいようにさせた。 俺の頭を撫でてはキスを落とし抱きしめてくる。 何でこんな甘えたになってるんだろう。 そのうち、腕の力が緩み始め、規則正しい寝息が聞こえてきた。 チャンス! ゆっくりとゆっくりと、満さんを起こさないように時間を掛けて、絡まる腕から抜け出した。 はぁ…さっき『かわいい』と思ったことを撤回する。 それにしても…本当に整った綺麗な顔だな。 睫毛が震えてて、何だか胸がきゅんきゅんするよ。 俺、本当にこのひとと結婚したんだ… 不意にどうしようもない多幸感に襲われた。 悲しくないのにぽろぽろと涙が零れてくる。 幸せで満たされて、満さんに対する愛情が次から次へと湧いてくる。 ひとを愛する、ってこういうことなんだろうか。 慌ててティッシュで目を押さえる。 「檸檬。」 慌てて顔を上げると、寝ている筈の満さんが起き上がって俺を見つめていた。 真顔で、すっ、と俺に近付くと親指で頬の涙を拭い取られた。

ともだちにシェアしよう!