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内緒(16)
「俺、自分の勝手な思い付きと我儘で、進藤さんだけでなくお店の人達まで…沢山の人達を巻き込んで迷惑掛けてしまって… 本当に申し訳ありませんでした!
それなのに、皆んな優しくして下さって…ありがとうございました!」
「檸檬君、頭上げて下さい。
あなたが足を運んで下さるようになってから、ここの空気が和んでいたの、ご存知ですか?」
「え?」
「私を含めて皆んな、あなたが纏う空気に感化されて、楽しく仕事ができてたんですよ。
お礼を言わなくちゃならないのは、こちらなんです。
楽しい時間をありがとうございました。」
「そんな…俺は何にも…」
「ご主人は勿論、会社の方や、あなたを取り巻く人達も皆同じ気持ちだと思いますよ。
あの多恵子でさえあなたのファンなんです。
どうかそのままの檸檬君でいて下さいね。
またお越しになるのを心からお待ちしていますよ。
さ、時間も押してます。
綺麗なラッピングの仕方を伝授しますよ。」
零れ落ちそうな涙をグッと堪えて、オーナー直伝の美しいラッピングを教えてもらった。
俺の分を練習代わりにして、本チャンの満さんのはとびっきり綺麗に…できた。
「やっぱりうちに来てほしいな。
社員として優遇するから、うちに就職しませんか?
このご時世でも、うちはお客様に愛されて残ってます。
そこに檸檬君が加わったら怖いもんなしなんだけどね。」
新藤さんに真面目にスカウトされたが、丁重にお断り申し上げた。
「お買い物はしなくても良いので、ぜひ遊びに来て下さい!」
とリップサービス以上の言葉を貰った俺は、『また来ます』と約束して店を後にした。
ギリギリセーフもセーフ。
明後日は満さんの誕生日だ。
間に合って良かった。
明日と明後日は有給休暇を貰ってるから、今日のうちに仕事を片付けて、なーんて…意気揚々と帰社したのだった。
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