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内緒(19)
ぐだぐだしているうちに定時になった。
「ほら、檸檬君、帰るよ!
満はひとりで頭を冷やすといい。」
「はい…」
デスクを片付けてパソコンの電源も落とした。
そうだ。メモ残していこう。
それを社長室の鍵穴の横にテープで貼り付けた。
おっと、忘れちゃいけないプレゼント。
「遅くなる、って言ってたし、俺達も遅くなってもいいよね。
うちに来ない?ご飯食べよう!
パスタなら任せて!」
「えっ、いいんですか?
お邪魔じゃないんですか?」
「ん?誰に?」
「えー…彼女さん?」
「あはっ、いないよ、そんなの。
遠慮しなくていいから。帰りは送ってくから。」
あははっ、と笑い飛ばした黒原さんに続いてエレベーターに乗り込んだ。
各階で停まるごとに乗り込んでくる人でぎゅうぎゅう詰めだ。
女子社員の雑多で過剰な香水に辟易しながら、やっと1階に着いて外の空気を吸えた時には生き返った気がした。
「はぁ…定時上がりも偶にはいいんだけど、女性達のあのくっさい臭いが苦手でね。
程を知れって言いたいよ。
まだ排気ガスの方がマシだ。」
「俺もです!息が詰まって倒れるかと…」
駐車場への通路で深呼吸を繰り返す。
「さ、乗って!行き先は君達のマンションだから飲んでも大丈夫!帰りは心配しないで。」
「は?黒原さん、今何て…」
「ん?同じマンションに住んでるんだよ、階は違うけど。知らなかった?」
「知りませんよ!インフォメーションにネームプレートありましたっけ?
え?何階なんですか?」
「個人情報開示が嫌でさ。出してないだけ。
君達の下の階だよ。」
「気付かなかった…そうなんですか…
じゃ、お邪魔しまーす!突撃ーっ!」
半分ヤケクソ。
満さんなんか…知るもんか!
「うわっ、黒原さんの車、カッコいい!
変えたんですか?いつ?」
「つい最近。
前のは長いこと乗ったからね。愛着があったんだけどエンジンがイカれちゃって。」
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