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誕生日(3)

執務に集中!? そんなもんできる訳ない。 手持ち無沙汰に携帯を触ってみたり、思い出したように書類を見るが全然頭に入らない。 何てザマだ。 そのうちに終業時間になった。 物音が全く聞こえなくなり、2人が定時に上がったことを知った。 鍵を開け、そっと部屋を見回すが、誰もいない。 パソコンの電源も切られている。 「…帰ったのか…」 ふと、ドアノブの近くに何か貼られているのに気が付いた。 ぺりっ、と剥がしてそれを読む。 相変わらずの丁寧な文字。 『満さん、勝手なことしてごめんなさい。 帰ったら一杯謝らせて。 檸檬』 「檸檬……」 愛おしさが込み上げる。と同時に大反省だ。 大人気ない俺。 “勝手なこと”!?何かしようとしてたのか? 檸檬、俺こそごめん。一杯謝るのは俺だ。 不貞腐れてヤキモチ焼いて、説明しようとする檸檬を無視した。 おい、満。お前一体幾つだ?いい年した大人の男が何やってんだ? 大切な伴侶に悲しい思いをさせて…… こうしちゃいられないけど、さっき『遅くなる』って言ってしまった… いや、そんなことはどうでもいい! 早く帰って檸檬の話を聞いてやらなければ。 今頃、俊樹の車の中で泣いてるんじゃないだろうか。いくら俊樹とはいえ、泣き顔すら他の男に見せたくない。 と、そこへLINEが。 俊樹!? 『吃驚させようと黙ってたんだ。 檸檬君が明日休む理由は、満の誕生日のディナーを作るため。 明後日は気を利かせた俺のプレゼントだよ。 仕事を抜け出してた理由は、直接檸檬君からちゃんと聞いてやれ。』 誕生日…誕生日…俺の? あぁーーーーっ!俺の誕生日だっ! 忘れてたぁーーーっ! 俺のために?檸檬が? 明後日は気を利かせた? これは、所謂“サプライズ”というやつだったのか… はぁ…そういうことは隠さないで伝えてくれよ…俺、鈍いんだから。

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