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誕生日(7)
結局、誘っても甘えても拗ねても、今夜は檸檬は首を縦に降らなかった。
いつもなら根負けして許してくれるのに。
俺は少々不貞腐れながらも、明日のご褒美に想いを馳せてワクワクしながら、仕方なくお利口に檸檬に手を出さず、抱きしめて寝ることにした。
そうは言っても、目の前にある『ご馳走』にお預けを食らうこの身が辛い。
おまけに檸檬からはいい匂いがする。
同じボディソープなんかを使っているのに、何でこんなにいい匂いがするんだろう。
檸檬の体臭がイイんだな、きっと。
くんくんと犬みたいに檸檬の耳の後ろや脇の下を嗅いでいると、本気で嫌がられた。
「満さん…いい加減に止めて下さい…」
「檸檬…お願い、せめて首の匂いだけでも嗅がせて…」
「満さん、ヘンタイですかっ!?」
「だって…檸檬、イイ匂いするんだもん…」
檸檬は
「もう」「ばか」「ヘンタイ」
とか文句を言ってたけれど、それからは俺の自由にさせてくれた。
優しいんだよな、檸檬。
ぐふぐふと込み上げるニヤけた笑いが止まらない。
あー、もう、好きだ、好きだ、好きだ。
『檸檬が好き』が止まらない。
「満さん……」
「何、何、何!?」
「しつこい。」
「え?」
「し・つ・こ・い。」
檸檬はそう言い捨てると、くるんと反転して、俺に背中を向けてしまった。
拒絶された…檸檬に嫌われた、かも……
ぐすん…檸檬…檸檬が大好きなだけなのに。
ぐすぐすと鼻を啜っていると、突然檸檬が振り向いた。
「満さん。」
「…はい。」
「0時になりました……お誕生日、おめでとうございます。
どうか身体には気を付けて。2人で楽しいこと、沢山しましょうね!」
ちゅっ
「檸檬……」
「ふふっ、お休みなさい。
明日の手巻き寿司、楽しみにしてて下さいね!」
にこっ、くるん
檸檬はまた背中を向けた。
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