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誕生日(10)
怒ってる?…そんな素振りはないけど。
いつもなら俺が用意するのを待ってるのに、今朝は自分でしちゃってる。
俺があんな態度取ったから…本当は凄く怒ってるのかも。
俺は自分がしたことを棚に上げて何だか悲しくなって、シンクの前で立ち尽くしていた。
「檸檬、食べるよ!」
満さんの呼ぶ声がするけど、動けない。
「檸檬?」
その場に立ったままの俺の様子を不思議に思ったんだろう、満さんが見に来た。
「檸檬…どうした?もしかして何処か火傷でもしてたのか?
あぁ、どうしよう俺のせいだ。何処だ?見せてみろ!」
ぽろっ
「うへっ!?檸檬!? 何だっ!?どうした!?」
うっ…ぐすっ…
「檸檬!?檸檬!?何処が痛いんだ!?あぁ…マズいな…泣く程痛いのか!?」
俯く俺の顔を覗き込みおろおろする満さんは、「何処だ、何処が痛い!?」と呟きながら俺の手を表裏とひっくり返して見たり腕を摩ったりする。
そんな満さんを見ていると、申し訳なくってもう『ゴメンナサイ』って言葉しか出てこない。
「…ゴメンナサイ…嫌な思いをさせちゃってゴメンナサイ…」
やっと絞り出すように伝えると、満さんの動きが止まった。
満さんは、ふぅ、と大きく息を吐くと俺の頭を撫でてくれた。
「檸檬…俺は気にしてないよ。
お前が嫌だということをやった俺が悪かったんだ。あぁ…もう泣くな。頼むから泣かないで。」
俺の頬を大きな手で拭うと
「さ、ご飯食べよう!」
と俺の手を引いてダイニングに連れて行った。
そして俺の分も茶碗によそってくれ、食べ始めた。
俺はぐしぐしと鼻を鳴らしながら、黙って箸を付けた。
後片付けも手早く終えてしまった満さんは
「定時で上がるから、イイコで待ってて。
楽しみにしてるから。」
と言い残し、軽いキスを落とすといつものように出勤してしまった。
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