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誕生日(11)

満さんは何事もなかったかのように行ってしまった。 ぽつんと残された俺。 「最悪だ……」 いくら驚いたとはいえ。 いくらいつも『危ないから止めてほしい』と訴えていたとはいえ。 俺がされて嫌なことトップ3に入ることだから、ついつい日頃の鬱憤も溜まってたんだろう。 でも、あんなに過敏に反応して叩いて怒ることはなかったのに。 それも朝一番に顔を見た瞬間に『お誕生日おめでとう!』って言うはずだったのに。 最低最悪な結婚して初の誕生日にしてしまった。 満さん、ごめんね。 思いっ切り怒ってくれれば良かったのに。 優し過ぎて…俺、辛いよ。 『檸檬のバカ!痛いじゃん!』って怒鳴ってくれれば良かったのに。 俺のことばかり心配して… ぽろぽろと涙が零れ落ちる。 情けない俺。 満さん、どんな思いで出勤したんだろう。 あ…黒原さんにLINEしておこう。 満さん、落ち込んでるし怒ってるはずだ。 ある程度の理由を知ってもらっておいた方がいい。 原因は全て俺にあるから。満さんは悪くないから。 俺は急いで携帯を掴むと、黒原さんに事の次第のメッセを送った。 ん?こんな朝っぱらから檸檬君のメッセ!? 今日は“お楽しみの”有休だろ?何だ何だ!? ……は?何だそれ。 おいおい。夫夫喧嘩の仲裁を俺に丸投げしないでくれるかな? 満の不機嫌な顔が目に浮かんだ。 ふぅ…今日の仕事の効率は最悪だな。 まぁ、満が悪いよな。嫌がることするからだ。 でも、甘えたい満の気持ちもよく分かる。 どっちもどっちだ。 うーん…まぁなるようにしかならないし。犬も食わないモノを俺だって食えない。 取り敢えず返信しておくか。 仲直りは家に帰ってからたっぷりとやってくれ。 策士黒原は、ため息をつきながら画面をタップし終えると、送信ボタンを押した。

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