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誕生日(15)
side:満
大人ぶって余裕ぶっこいて檸檬を気遣い、何事もなかったかのように家を出てきた。
大きな目を潤ませて『ゴメンナサイ』を繰り返す檸檬がかわい過ぎて、そのまま押し倒しそうでヤバかったから。
確かに嫌だと言われてることをした俺が悪い。
一度や二度ではなく、四六時中言われている。
叩かれた手はちょっと痛かったけど。
こんな痛み、すぐに消えてしまう。
檸檬が、ハッと何かに気付いたような顔をした後、速攻で謝ってきた。
そうか…いの一番に俺に『おめでとう』を言いたかったのに、手を叩いた挙句に叱りつけたからか。
うん、正直言ってちょっとだけムカッとした。
でも落ち込んだ檸檬の気持ちがひしひしと伝わってきて、怒鳴り返すことはできなかったんだ。
もしそれやっちゃったら、反省してる檸檬を追い詰めるし、喧嘩なんかしたくなかった。
今日は早く帰るよ。
きっと俺のために腕を振るって美味いご飯を用意してくれてるはずだ。
「おはよう。」
「…社長、おはようございます。」
物言いたげな俊樹の視線とぶつかった。
まさかコイツ、知ってる!?
「俊樹、まさか今朝のやり取り…」
「心配した檸檬君からLINEがきたよ。
お前、大人になったなぁ…うっ、感無量…」
「大袈裟。何言ってんだか。」
「お前、あんないい子いないぞ!お前には勿体無いくらい。
まぁ、喧嘩する程仲がいいって言うからさ、偶にはいいんじゃないの?
檸檬君さ、せっかくの記念日を台無しにした、ってえらく落ち込んでたぜ。
今日は絶対に早く帰れ!」
「言われなくても分かってる。俺の檸檬は最強だからな。
檸檬が嫌がることした俺が悪いんだ。
ぜってぇ定時でダッシュで帰るからな!」
「“嫌がること”って…お前何したんだ?
セクハラ!?」
はぁ…がっくり力が抜けた。
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