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誕生日(19)
そうだ。
さっき俊樹がくれた物は何だったんだろう。
胸ポケットから取り出した封筒を開くと、中からチケットとカードが現れた。
「んんっ?何だろ…おおっ!コレは…」
ジャジャーンという効果音が聞こえてきそうなそれは…明日から一泊二日の温泉旅行!
『満、誕生日おめでとう!
檸檬君と結婚してしっかりしてきた、と中々の評判だよ。
日頃頑張ってるご褒美に俺からのプレゼントです。
2人とも有給休暇は明後日まで延長。
書類は代理で申請しておく。
行ってらっしゃい。』
「俊樹……お前ってやつは…」
有能秘書という肩書きの前に、幼い頃からどんな時もずっと自分の側にいてくれた大切な“家族”。
「俊樹、ありがとう。お前も幸せになりますように。」
そう呟くと、愛おしい伴侶が待つ自宅へ車を飛ばした。
「れもぉーーーん!ただいまぁーーっ!!」
キッチンに立つ檸檬に背後から抱きつき、いや飛び付きそうになった。
ハッ!
ダメだっ!
今朝の光景がフラッシュバックする。
抱きつく寸前でブレーキ!!
広げた両手をゆっくりと下ろしながら後退りし、1メートルくらい離れてもう一度告げる。
「檸檬、ただいま。」
俺を見つめる檸檬の瞳は一瞬陰りを見せたが
「満さん、お帰りなさい。お疲れ様。」
と笑顔で迎えてくれた。
ん?今のは…何だ?
「…満さん、今朝はごめ」
「ストップ!もう、言いっこなし!
俺、先に風呂に入ってきてもいいか?」
檸檬の頭を撫でて、返事も聞かないうちにバスルームへ逃げ込んだ…そう、逃げたのだ。
服を脱ぎながら猛省する。
ふぅ…俺はやっぱり『待て』のできない駄犬らしいな。
飛び付きそうになって、また嫌な思いをさせたのではないか?
さっきの檸檬の目が気になって仕方がなかった。
「後でちゃんと謝ろう…」
その頃、檸檬がしくしくと泣いていたのも知らずに、俺は軽く落ち込んでシャワーの飛沫を顔から浴びていた。
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