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誕生日(20)

「ふぅ、さっぱりしたー! れもーん!お前も入ってお…檸檬!?おい檸檬、どうした?」 シンクの前の床に檸檬が蹲っている。 慌てて駆け寄り、肩を揺さぶった。 心臓がどくどく言い始めた。 「檸檬?何処か痛いのか?気分でも悪いのか? そうだ!救急車!119番!」 檸檬は、慌てふためく俺のスウェットの裾を掴むと叫んだ。 「違う!大丈夫!……大丈夫だから…」 「大丈夫ってお前…泣いてるじゃないかっ! 大丈夫じゃないだろっ!?」 俺は檸檬を抱き上げると、寝室へ運び込んだ。 檸檬は泣くのを我慢しているのか、喉がひぐひぐと鳴っていた。 「…ゴメンナサイ……」 「何で謝るんだ?本当に何処も悪いところはないのか?我慢しないでちゃんと伝えろ! 檸檬…痩せ我慢するな!」 俺は一筋溢れた檸檬の涙を拭ってやった。 「…だって…だって、満さんが……」 「俺?俺が何だ?」 「…俺が、今朝、怒った、せいで…我慢、してるっ…」 そこまで言うと、檸檬は本格的に泣き始めた。 我慢?我慢…我慢…あー…アレか… 帰ってきた俺がバックハグせずにバスルームに逃げ込んだのを気にしているらしい。 ううっ、健気で堪らんよ、俺のヨメはっ! 「よいしょ、っと…」 ベッドに横たえた檸檬の隣に滑り込むと、そっと胸に抱え込んだ。 鼻先に当たる檸檬の髪の毛から、卵焼きの匂い混じって甘いバニラの匂いがする。 これはきっと…ケーキも手作りしたのか!? 泣きじゃくる檸檬の頭を撫でながら 「…あのな、これでもさ、一応俺も反省してるんだよ。 今まで嫌な思いさせてごめんな。 でもさ、檸檬が好き過ぎて好き過ぎて、ついつい…四六時中こうしていたいし、構いたいし構ってほしいんだよ。 …何もお前が泣く必要はないだろ? なぁ、泣き止んで…俺にいつものかわいい笑顔を見せてくれないか?」 「…今、ブサイクだから嫌です…」 「どんな檸檬でもかわいいから!」 「…やだ…」

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