217 / 371

誕生日(22)

「うわぁ、美味かった!マジで美味かった! 檸檬、ありがとう。ご馳走様!」 「えへへ、喜んでもらえて嬉しいです。」 具沢山の手巻き寿司を頬張りモゴモゴ言っている俺を見て、檸檬が笑い転げる。 檸檬はさっきまで泣いていたのに、表情がくるくる変わって面白い。 逆に黙っていてもそれが苦にならない。 何てことない普通の風景が愛おしい。 こんな感情が持てるなんて、檸檬と出会うまで考えもしなかった。 「満さん、ケーキもあるんですよ♪」 「おっ、それは楽しみだ。 じゃあ、ここ片付けてしまおうか。」 「満さん、片付けは俺が」 「流しに持っていくだけだよ。後は頼んだ。」 「はい!」 綺麗になったテーブルに、檸檬がしずしずとケーキを持ってきた。 生クリームの上に苺がちょいちょい、とのったシンプルなホールケーキ。 「おっ、美味そうだ!なぁ、檸檬、これひょっとして…」 「はい!俺が作りました。 お口に合うと嬉しいんですが…」 「やっぱりそうか!さっき檸檬を抱きしめた時にバニラの香りがしたから…そうか、わざわざ俺のために…檸檬、頑張ったな。 ありがとう!」 「えへっ。蝋燭つけますね。」 大小の蝋燭に火を灯すと、檸檬は部屋の電気を切った。 ゆらゆらと柔らかな灯りが俺達を照らしている。 檸檬が小さな声で歌い出した。 ♫happy birthday to you  happy birthday to you  happy birthday dear 満さーん  happy birthday to you♫ ぱちぱちぱちぱち つんつん突かれて、勢いよく蝋燭の炎を吹き消した。 真っ暗な空間に、蝋燭の残像が残っている。 「満さん…俺、あなたと出会って結婚して…凄く幸せです。 これからもこうやって、あなたがこの世に生まれたことを一緒にお祝いさせて下さいね。」 「檸檬…勿論だ!」 愛おしさが増して、隣にいる檸檬を抱きしめた。

ともだちにシェアしよう!