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お楽しみはこれから(11)
後で『我慢するな』と説教せねばならない…とはいえ、口が固く頑固な俺の伴侶は、ギリギリまで自分を押さえ込む癖がある。
美味いものを食べさせて、とろっとろに蕩けさせて、言うことを聞かせるか…
「おっ、豪華だな!」
「美味しそうっ!」
檸檬の顔が、ぱぁっと輝いた。
よかった、俺は勿論だけど檸檬の好物も並んでいた。
「好きなだけ食べていいぞ。」
「やったっ!……追加で頼んでもいい?」
「勿論!場所や雰囲気が変わると食も進むと言うからな、無理せずにゆっくり食べるといい。
先ずは…飲み物は何がいい?ビールかそれとも日本酒でいくか?」
「アルコール入ると食べれなくなっちゃうから…俺は後で。満さん、お好きなのをどうぞ!」
「うーん…やっぱり俺も後にしよう。」
「えっ、俺のことは気にしないで」
「違う。俺も先にお腹を満たしたいし、檸檬と素面で色々話したいから。
別に気を遣ってる訳でも我慢してる訳でもないから。
さ、いただこうか。美味そうだぞ。」
「……ゴメンナサイ…」
「そんな顔するな。俺がしたくてそうしてるんだから。
んっ、美味い。檸檬、あーん。」
問答無用で前菜の小鉢に箸をつけ、檸檬の口に放り込んだ。
吃驚しながらもむぐむぐごくんと飲み込んだ檸檬の顔が綻んだ。
「美味しい…」
2人っきりの時間を堪能したかったから、仲居さんには給仕を遠慮してもらってる。
仕事のことや俊樹のこと、ネクタイピンを作る間のヒヤヒヤしたこと…大切なこともたわいのないことも、檸檬との話は尽きない。
メインのご当地ステーキを平らげ、デザートに進む頃には、俺はもう檸檬を見ているだけで幸せ、腹一杯で、俺の分も檸檬に食べさせた。
「やったぁー!」
と満足顔でプリンを頬張る檸檬を見ながら、今夜はどんな風に抱いてやろうかと、妄想を膨らませていたのだった。
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