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お楽しみはこれまで(4)

side:檸檬 んむーーっ、何かふわふわして心臓がドクドク鳴ってる…身体も熱い… 何度も名前を呼ばれていた気もするけれど…しんどくって返事もできなかった。 何となーく空中を浮いている感覚がふっと消えて、ぽふぽふとした物の上に寝かされた。 ふぅ… んへっ?ため息?満さん?何で?どうしたの? むむっ、これはきっと夢だ! だって俺は、満さんの誕生日で絶賛温泉旅行中!なんだから。 ご飯も美味しくてお腹一杯、満さんのデザートも奪って食べちゃったし。 久し振りに口にしたワイン、あれ美味しかったなぁー。甘くってコクがあって、ジュースみたいに飲めちゃった。 ん?飲めちゃった…じゃなくて……何だったっけ? あーっ、もう、考えるのやだ! 頭、もう働かない…指もぴくりとも動かせないよぉ…… 「……あれ?……ここ、何処だっけ?」 月明かりが薄っすらと障子に柔らかな光を落としている。 キングサイズのベッドに、どうやら1人で寝てるみたいだ。横に手を伸ばしても、いつもの温もりがない。 シーツのさらさらした感触が指を滑っていくだけ。おかしい。 そうだ。満さんと温泉旅行に来てるのに。俺、どうして1人でここに? 満さん、何処にいるんだろう。 よいしょと起き上がり、あたりを見回してみる。 「…満さん?」 呼んでも返事がない。 ぼんやりとした頭が次第に鮮明になっていく。 「あれ?確かあっちの部屋で食後にワインを飲み始めて、凄く美味しくって調子に乗ってお代わりして…それから、それから……あれ?」 そこからの記憶が、ない。 まさか…まさか寝落ちして、満さんを放って一晩過ごした!? ええっ、今何時!? 慌てて時計を探すけれど見つからない。 えっ、何処?普通ベッドサイドにあるだろう? 落ち着け、檸檬。 枕元のサイドテーブルに目を遣ると、あった! そこに組み込まれたデジタルの数字は『22:10』だった。 俺の記憶が飛んでから4時間は経ってるのか。

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