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お楽しみはこれまで(5)

満さん、まさか呆れて帰ったんじゃ…… ベッドから飛び降りると、すぐにクローゼットを開けた。 あった……良かった…満さんのスーツも靴もある… じゃあ何処に?俺を置いて何処に? あ!さっきの部屋! ドタバタと音を立てて、食事をした部屋に飛び込んだ。 「満さんっ!」 いた!……机に突っ伏した満さんを発見した。 テーブルには、空になったワインボトルが横倒しになり、グラスにはほんの僅かにワインが残っていた。 「満さん、満さんっ、起きて!起きて!」 「んんんっ……」 「満さんっ!ねえってばぁ、満さんっ!」 「んー」 何てことだ。俺のせいで…せっかくお泊まりに来たのにこんな所に独りぼっちで。 俺が酔っ払って寝てしまったから、満さん寂しくってひとり酒しちゃったんだ。 「満さん…」 思わずその背中に縋り付いた。 ぽろっ 「…っく…ひっく…満さん、ゴメンナサイ…ひっく…うぐっ…」 俺の涙は満さんの浴衣に吸い込まれていく。 申し訳なさ過ぎて暫く泣いていると 「んんー、檸檬?檸檬いるの?」 「満さん…うわぁーーーーーんっ!」 「れっ、檸檬!?どうした?うわっ」 背中からくるんと回り込んで、満さんの胸に飛び込んだ。 アルコールの匂いがぷんぷんする胸に擦り寄って、犬みたいにくんくん匂いを嗅いだ。 これじゃない。 この匂い嫌い。 満さんの匂いがほしい。 鼻を啜りながら「ゴメンナサイ」を繰り返す。 満さんは、そんな俺の頭を撫でながら抱きしめてくれる。 「…っく…満さん、ゴメンナサイ…」 「…飲み過ぎだぞ、弱いくせに。」 「…ん…ゴメンナサイ…」 「ところで今何時だ?」 「夜の10時10分過ぎてる。」 「そうか…んーっ、身体が痛いなぁ。 檸檬、ベッドに行くか。」 「…満さん、俺、この匂い、やだ。」 「匂い?えっ、俺臭い!?まさかの加齢臭!?」 「違うっ!お酒!…満さんの匂いが、しない。」

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