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惚気(7)
俺は赤石を見つめると
「本当なら…お前のやりたかった仕事をさせてやれば良かったのだが…赤石、許せ。
あの時は、ああするしかお前を守る術はなかったんだ。
本当に申し訳なかった。」
頭を下げる俺に、赤石は
「社長!頭を上げて下さいっ!
俺は…俺はそれで良かったと思っています。
後悔なんかしていません。
確かに、あの時悔しい思いをしましたけど、今は人事部という枠に捉われずに、こうして使っていただいて、充実した日々を送っています。
そういう手筈を組んで下さってる社長のお気持ちを俺はありがたく思ってるんです。
それに…
そのお陰で、弘毅という最高の生涯の伴侶を手に入れることができたんです。
こんなに幸せなことはありませんよ。
逆にお礼を言いたいくらいです。
ですから、どうかもう俺のことで、ご自分を責めたりしないでほしいです。
社長、そうなったのも俺の人生なんです。
過去を振り返るのではなく、これからの人生をどう歩んでいくか。
その隣には弘毅がいる。そう考えただけでワクワクしますよ。」
「赤石……」
「社長だってそうでしょう?
檸檬君がいるから踏ん張れる、頑張れる。
お互いに最高の伴侶を手に入れましたね。
俺達を叱咤激励してくれるヨメさんにご褒美をあげなきゃ…いや、俺達自身へのご褒美になっちゃうのか……ははっ。
さっきの件、遥さんに聞いて入荷日分かり次第メールしますよ。
ここのたまごサンド、美味いんですよ。
美味しいうちに食べましょう!」
赤石は、お先に、と言うと、たまごサンドを掴んで齧り付いた。
美味そうに頬張るその姿に、俺も負けじと手を伸ばして被りついた。
「……美味い。初めて食べたけど、いい味だ。」
「でしょ?これ、小腹が空いた時オススメです。」
惚気をかましたつもりが惚気られ、結局赤石という男の大きな器を感じる羽目になってしまったのだった。
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