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ダンナ達の思惑(16)
珍しく手を出されることもなくて、期待外れというか、安心したというか。
いや、期待なんてしてない。うん、してない、はず。
ふと、頭に浮かぶのは…
腰に回される手の平の大きさとか。
頸を這う唇の柔らかさとか。
「檸檬」と、耳元で囁かれる、少し掠れた甘い声とか。
俺の背中をすっぽりと覆う温もりとか。
何だか、それが当たり前になってしまっていて、正直に言うと…何もされないと物足りない。
これって。
満さんに『飼い慣らされた』…所謂『調教された』って言えるんじゃないだろうか?
そんな思いに行き着いて、ドギマギする俺に気付かないのか、満さんはゆったりとソファーに座ってパソコンを触っている。
仕事の持ち帰りなのかな。
書斎じゃなくてリビングにいるのは、そう大した案件ではないのだろう。
終わったら一緒にベッドに行って、ギュッてしてもらおう。
俺は気持ちを落ち着かせようと、ホットミルクに蜂蜜を足した物をマグカップに注ぎ、満さんの所に持って行った。
邪魔にならないように、少し間隔を空けて座り、トレイごとテーブルに置いた。
真剣な横顔、カッコいいなぁ。
睫毛が長いよ。肌も綺麗だし。
はぁ…このひとが俺の旦那様だなんて…
「おっ、檸檬、ありがとう。蜂蜜の甘い匂いがする。」
「あっ、いいえ。
リラックスできるようにホットミルクです。少し蜂蜜を入れてみました。
熱いので気を付けて下さいね。」
「サンキュー。いただきます。
…うん、美味い。
もう少しメールチェックするから、先に休んでてくれ。」
えっ…独りで?
「…分かりました。これ飲み終わったらお先に失礼しますね。」
「うん。」
満さんはひと言だけ返すと、また画面に眼を遣ってしまった。
何だか急に突き放された気がして、少し寂しくなった。
あれ?俺、しつこいのは嫌だと散々言ってたのに、いざこうやって構ってもらえないと寂しくなるって…
沈黙が続く中、冷めたミルクを飲み干して、満さんに「オヤスミナサイ」とだけ言い残し、歯磨きを済ませて寝室へ向かった。
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