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ダンナ達の思惑(19)
「ダメだ…ほとんど眠れなかった…」
ぼぉっとしたままいつもの時間に起きて洗面を済ませると、朝食と弁当の準備を始める。
だけど、心ここに在らずの今日の俺は手際が悪くて、卵焼きを真っ黒に焦がしてしまう始末。
焦臭いキッチンを慌てて換気するけど、やっぱりすぐには空気は入れ替わらない。
「はぁ…ダメダメだなぁ…」
何とかやり直して準備を終えると、覚束ない足取りで満さんを起こしに行く。
相変わらずの綺麗さ。寝顔も綺麗だなんて狡い。
暫くぼんやりと見惚れていた。
「満さん、時間ですよ。起きてー。」
「んー…あとごふん……」
寝ぼけてる満さんもかわいい。
頬をぷにぷにとつついてみる。
擽ったいのか、顔を左右に振る様も、子供みたいでキュンキュンする。
「満さん、早く、んっ」
腕を引っ張られ、そのまま満さんの胸にダイブした。
布団越しに抱きしめられてドキドキする。
昨夜から欲していた温もりと匂いが、俺に吸い込まれていく。
満たされる。
満さんが補充されていく。
「満さん……」
大きく息を吐いて、満さんの匂いを充填しようとしたその時、突然ガバッと身体を離された。
「えっ」
「ヤバい、時間だ!遅刻する!
ほら、檸檬、早く準備しなきゃ!」
飛び起きた満さんは、慌てて寝室を出て行ってしまった。
後に残された俺は、暫くその場で呆然としていたが、キッチンから
「おーい!れもぉーん!早くしないと遅刻だぞー!!」
という叫び声に我に返り、キッチンに飛んで行った。
悶々とする。
カーラジオからは、軽快なポップスが流れている。
あー…今日もいい天気だなぁ…
「…ん、檸檬、檸檬!」
「うわあっ!はっ、はいっ!」
「…その様子じゃあ聞いてなかったな。」
「…ゴメンナサイ…」
「今日夕方、親父に呼び出されたから、本家に顔を出して来る。
遅くなるかもしれないが帰るから、おにぎりでも作っておいてくれないか?
檸檬の飯が食べたいから。」
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