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してやったり(5)

カタン 吃驚して振り向くと、満さんが俺の方に歩いてくるのが見えた。 「檸檬、こんな時間にどうしたんだ?」 「あ…ごめんなさい…何だか寝付けなくて…」 「そうか…身体冷えてしまってるじゃないか。」 満さんは俺の横に座り、肩に手を回してきてそう言った。 「大丈夫です!さっきまで温かいカフェオレ飲んでましたから。」 「飲み終わったんだろ?」 「はい。」 満さんは俺から空のマグカップを取り上げると 「じゃあ、もういいな?風邪でも引いたら大変だ。 早くベッドに戻っておいで。」 そう言いながらシンクにことりとマグカップを置くと、寝室に行ってしまった。 またぽつんとひとりになった。 いつもなら抱っこしてくれるか、手を引いて連れて行ってくれるのに…… 一緒に連れて行ってもらえなかったことに、俺は少しショックを受け、じくじくと痛む胸を押さえていた。 「檸檬!」 寝室から俺を呼ぶ声が聞こえる。 一応、呼んでくれるんだ… 「はっ、はいっ!」 返事はしたものの、中々身体が動いてくれない。 やっと立ち上がって、冷えた腕を摩りながら寝室へ向かう足取りは重い。 暗闇にこんもりと盛り上がった布団の端をそっとめくり、滑り込んだ。 なるべく端に寄って、満さんにこの冷えが移らないようにして。 じわりと背中越しに満さんの温もりが感じられる。 「檸檬。」 急に名前を呼ばれて吃驚した。 「眠れないのか?」 黙っていると、ぐい、と腰を引かれて背中から抱きしめられ、足が絡み付いてきた。 急速に熱が伝わってくる。 ドキドキと動悸がしてくる。 満さん?嬉しいけど、どうしたんだろう… ぽんぽんと頭を撫でられ、たったひと言だけ。 「もう寝ろ。」 仕方なく頷くと、もう一度頭を撫でられた。 こんなの…酷だよ、満さん… 身じろぎもできず、満さんの体温と息遣いを聞いているうちに、俺はいつしか夢の中に旅立っていた。

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