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してやったり(7)
思いの外 早く達して、手早く後始末をすると、俺は慌てて消臭スプレーを振り撒いた。
…無香で良かった…匂いの付いてる奴ならアレとコレとが混じり合って変な匂いになって、何をしてたか一発でバレたかも。
何だか変なことに安心しながら扉を開けると、満さんがこちらに向かって来ているのが見えた。
ドッドッドッと心臓が跳ねる。
平成を装ってキッチンに逃げ込んだ。
うわぁ…何で今起きてくるんだ!?いつもなら起こしに行くまで起きてこないじゃんか!
神様仏様、どうかバレませんように……
用を済ませて出てきた満さんは、いつもと同じで。
そっと俺を後ろから抱きしめて
「檸檬、おはよう。」
と耳元で囁いた。
「満さん、おはようございます。」
そして首を逸らして…キス。
いつもと同じ、いつものオハヨウの儀式。
良かった…バレてなかった……
「何か手伝おうか?」
「ううん、大丈夫です……今朝はひとりで起きれたんですね…」
「あぁ、夕べは早く休んだからな。
やっぱり不摂生は宜しくないな。規則正しい生活をしなきゃ。
お言葉に甘えてあっちで待ってるよ。」
満さんは、俺に巻き付けた腕をあっさりと解いて、新聞を取りに玄関に行ってしまった。
あれ?諦めた?
いつもなら、あそこで暫く時間を気にしながらもイチャイチャして、甘ったるいひと時を過ごすのに…
「“規則正しい生活”って……」
思わず出たひとり言。夜遅くまでイチャイチャしない、って言われた…んだよね?
ハッとして満さんを見たけど、聞こえていなかったみたいだ。
何だか…意図的に避けられている?
最低限のコミュニケーションは取ってくれているみたいだけど…
特に本家から戻ってきてから、何となく満さんが余所余所しい気がする。
気のせいじゃない。絶対そうだ。
本家で何があったんだろう。何か言われたんだろうか。
まさか…やっぱり男はダメだって………
胸に生まれた黒い煤 を消し去る元気が…消えた。
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