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してやったり(11)
信号待ちの度に、ちらちらと横に視線を投げかける。
かわいそうに。夕べ寝付けなかったのはそのせいだったのかも。
早く気付いてやれば良かった。
俺が帰宅するまでに元気になってくれるだろうか。
その時、大いなる勘違いをしていることに全く気付いていなかった俺は、相変わらずのポンコツだったんだ。
檸檬の具合の悪いのは、まさか俺のせいだったなんて…
「檸檬、着いたぞ。大丈夫か?1人で上がれるか?」
「大丈夫です。お気遣いなく。
社長、お急ぎにならないと会議に間に合わなくなります。
お気を付けて。」
「そうか、悪いな、檸檬。
じゃあ、荷物頼むな。なるべく早く帰るから。」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
するりと助手席から降りた檸檬は、軽く一礼して俺が発車するのを見送ってくれた。
具合が悪いから早く部屋に戻ってくれれば良いのに…律儀に俺を見送る檸檬に愛おしさが増し、このまま駐車して家に帰りたくなった。
途端に、俊樹の冷徹な顔が浮かんだ。
ヤバいヤバい、早く帰らなければ。
俺は会議に間に合うように、急いで車を飛ばして会社に辿り着いたのだった。
半分、うわの空の会議をさっさと済ませた。
もう、11時過ぎてるじゃん!
檸檬はちゃんと受け取ってくれたのだろうか。
大慌てで社長室のドアを開けると、俊樹が平然と言った。
「社長、檸檬君から電話がありましたよ。
『無事に受け取りました。』
だそうです。」
「他にはっ!?檸檬は何か言ってなかったのか!?」
「いいえ、別に。」
「そんな訳ないだろ?何かあるだろ、何か!
『吃驚した』とか『嬉しい』とか、何とか!」
思わず俊樹に食ってかかる。
「ご自分でお聞きになったら如何ですか?
その方が早くて正確だと思いますけど。」
「くぅぅぅっ」
悔しいが、俊樹の言うことは、ごもっともだ。
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