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跡取り、見参!(3)
食事中満さんは吹雪君と、学校生活のことや、今始めたバイトのこと、学生の間に身につけて欲しいことなんかを話していた。
俺も、自分の頃とは少し変わった風潮に吃驚しつつ、経営者としての満さんを密かにリスペクトしながら、時々会話に参加していた。
和やかに時間が過ぎ、食後のコーヒーも飲み終え、そろそろお開きとなった。
吹雪君は名残惜しそうに席を立ち
「今日は本当にありがとうございました。
社長、俺しっかり励みますのでご指導よろしくお願いします!」
そして何故か俺の手を両手でふわりと包むと
「檸檬さん、物凄く美味しかったです!
俺も檸檬さんみたいなパートナーが欲しくなりました。
また料理食べさせて下さいね!」
俺が答えようとしたその時、満さんが俺と吹雪君の間にやんわりと立ちはだかった。
「そうだね。しっかり頼むよ。
でも、吹雪君。
無闇矢鱈に他人の伴侶の身体に触れない方がいい。伴侶でなくともそれは“セクハラ”と見做 される。
以後、気を付けるように。」
「…すみません。そんなつもりはなかったんです。」
「満さん、そんな言い方」
「さて吹雪君。帰り道は分かるよね?
気を付けて帰りなさい。
これから本家からも色々と連絡があると思う。頑張ってくれ。」
「…はい。ありがとうございました。
今後ともよろしくお願いいたします。」
パタン、と玄関のドアが閉まった。
「満さんっ!あんな言い方、痛っ。」
無言の満さんに右手首を掴まれて、洗面所まで引っ張られていった。
満さんは俺のシャツの腕をまくり、右手を丁寧に洗い始めた。俺はただ、もふもふに泡まみれになった手を見つめている。
右手だけ?何のため?何がしたいの?
あっ…
そこで俺はやっと『吹雪君に触れられた所だ』と悟った。
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