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跡取り、見参!(8)
side:吹雪
その頃…満にグサリと釘を刺されて帰宅した吹雪は、ひとり落ち込んでいた。
話に聞いていた通り、社長の伴侶は俺の理想のどストライクだった…
男が好きという訳ではないけれど、理想の恋人の姿がそこにあったのだ。
帰りたくなかったし、思わず手を握ってしまったら、案の定社長に威嚇された。
すっげぇ怖かった。チビるかと思った…流石、現当主、迫力が違う。視線だけでコロされるかと思った… 檸檬さんはあの眼力に気付いているのだろうか?
いや、確かに不用意に身体に触れてしまった俺が悪い。いくら男性でも、“他人の奥さん”なんだから…
相手次第ではセクハラだと言われかねない。
社長の言う通り、気を付けようと思った。
俺は本来なら、傍流の次男として細々と生きていくはずだった。
特に野望もなく、やり甲斐のある仕事に就いて、かわいい嫁と子供と平々凡々な一生を過ごすもんだと疑わなかった。
ところが、金山家の直系の跡取りとしての話が急浮上し、俺の立場は一変した。
俺のことを軽々しく扱っていた家族や親戚達は、今までのことを忘れてしまったかのように、態度を変えた。
人間って怖い。
誰を信用して誰がそれに値しないのか、見抜く力が必要だと感じた。
と同時に、肩書きとそれに伴う様々な実力もあわせ持たなければならない、ということも。
安易に返事をしてしまった俺は、相当な覚悟が必要だったことに、後々気付くことになる。
それだけ『金山家』というのはそびえ立つ山のように大きなモノだったのだ。
初めて本家に挨拶に行った時、社長を始め皆暖かく迎えてくれたのだが、場違いな雰囲気に飲まれそうになり、自分の浅はかさを悔いた。
しっかりしなければ。
選択したのは自分だ。
学生の間にできることはやっておこう。
そんな気概を持ち頑張って、難関と言われる大学にも合格した。
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