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跡取り、見参!(9)

入学前から、ベテラン秘書の黒原さんがあれこれと親身になって世話をしてくれていて、一人暮らしにも全く不安もなく困ることはなかった。 逆にあの家から早く出たくて、その日を指折り数えて待っていたくらいだった。 一人暮らしというものは俺にとってとても希望に溢れたもので、今までの鬱屈した人生が全てチャラになりそうなくらいの充実した日々のスタートだった。 センスのいい真新しい生活用品。(黒原さんが俺の好みを聞きながら見立ててくれた) 束縛されることのない自由な時間。 自分とはタイプの違う新しい友達。 傍流で若輩者の俺に目を留め、こんな環境を与えてくれた金山社長に感謝してもし尽くせない。 絶対に期待に応えたい。胸を張って『跡取りだ』と言える自分になりたい。 意気揚々と大きな希望と野望を持って、大学の雰囲気にも慣れて少し余裕が出てきた頃合いで、今日社長から自宅に招かれたのだった。 あぁ…それなのに…何であんなことやらかしちまったんだろう、俺。時を巻き戻したい… でも檸檬さんはキュートだし笑顔はかわいいし、料理も上手で… 社長が羨ましい、あんな恋人がいたらいいな、って心から思ったんだ。 あれ?俺って同性もイケる口だったっけ? いやいや、俺はおっぱいが欲しい。 今度会ったら謝らなくちゃ。 謝って許してもらえるんだろうか。 社長の圧と視線がマジで怖かった。信頼関係が吹っ飛ぶような、そんな雰囲気すらした。 命が縮む、というのはあんな心境のことなんだと思う。 あれで俺の寿命の数年は、マジで縮んだはずだ。 檸檬さんは単なる握手だと思っていたようだったけど…女性だったら、幾ら顔見知りの男でも急に触られたら張り倒されてたかもな。 世間知らずな俺。情けない… 反省と後悔が頭を巡り、意気消沈してすごすごと帰る道すがら、『反省』と『跡取り解消』の文字が頭に浮かんでは消えた。

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