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跡取り、見参!(11)
それからすぐに黒原さんから、時間と待ち合わせの場所を指定するメッセが届き『承知致しました』とメッセを返した。
店の名前を検索すると、結構お高い料亭であることが分かった。
黒原さんの奢りって言ってたけど…これは申し訳なさ過ぎる…
その後の授業も上の空で、ただぼんやりと座っていただけだった。
友人達からも心配されたが『体調不良だ』と誤魔化して済ませた。
最寄駅まで足を運び、まだ時間に余裕があったので、本屋で時間を潰す。
ピロン
あ、黒原さんからだ。
画面を開くと
『どうしても同席したいという奴がいるから連れて行くよ。
空気だと思ってくれて構わない。
あ、満じゃないから安心してね。
では後ほど。』
同席?空気?
一体誰なんだろう。
承知した旨の返事を返したものの、気になって仕方がない。
金山家の関係者だろうか。俺の値踏みに来るのか?
当主の伴侶に手を出したから、この話は無かったことに…なんてことになりはしないか…
心臓がバクバクし始めた。
あと30分。
ゆっくり向かえば10分前には店に着くはずだ。
判決を待つ被告のような思いを抱え、足取りは重く店を出た。
はぁ…
黒原さんに相談して何とかなる問題なんだろうか。
いや、相談じゃないなこれは。
いずれにせよ、自分の軽率な行動が招いたこと。逆の立場なら、俺だって相手を許さないと思う。
潔く自分の非を認めて謝罪して、社長との橋渡しをしてもらおう…
こんなことが実家にバレたら、俺は二度とあの家の敷居を跨げなくなる。
“役立たずの次男”に逆戻りだ。逆戻るだけならまだマシだ。
理由が理由なだけに、今まで以下の扱いを受けるだろう。
天国と地獄。月とすっぽん。提灯に釣鐘。
俺の人生…終わったな……
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