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跡取り、見参!(13)

通されたのは中庭が見える個室。 接待してくれる着物の女性がいるのは、高級店の証か!? 興味津々、物珍しげに部屋の中をキョロキョロと見渡してみる。 床の間には、綻びかけた菖蒲かあやめのような花がスッと生けられている。 掛軸は誰のだろう、落款もよく分からないが、勇ましい武者像が描かれていた。 もう辺りは宵闇に包まれていて、枯山水のように敷かれた玉砂利が、月明かりにぼんやりと照らされてガラス窓に透けてる様子が美しい。 だがその陰影がまた水墨画のようで趣がある。 良く手入れされているのが分かる。 ここは老舗の鰻屋。 上京する前に何かの話の流れで『鰻が好きだ』と言ったことを覚えてくれていたんだろうか。 こんな所、絶対高いに違いない。 奢り、って、本当に良いんだろうか。 俺の跡取りとしてのクビがかかっているというのに、呑気にお高いモノを食しても大丈夫なのか!? それこそ最後の晩餐にならなけりゃいいんだけど… そんなこんなで、俺は緊張し過ぎて膝を崩せずにいる。 机を挟んで、黒原さんとニールさんが座っている。 時々ニールさんに眼光鋭く見られているのは気のせいだろうか。威嚇しているようにしか見えないのだが…あの…俺、黒原さんのこと絶対に狙ってなんかいませんし! 「吹雪君、足崩してよ。 そんな緊張しなくても、取って食いやしないからさ。」 「食っても食われても大事(おおごと)だろ。」 「ニール、ちょっと黙ってて。」 俺に(多分)敵意剥き出しのニールさんは、黒原さんに嗜められて、顔を背けてしまった。 これは大変だ。 黒原さん家も巻き込んでいそうな雰囲気に、改めて自分のしでかした軽率な行動を猛省した。 ドッドッドッと跳ねる心臓を何とか落ち着かせようとしても、中々静まってはくれない。 そんな中、仲居さんは淡々とおしぼりとお茶の給仕をしてくれている。

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