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跡取り、見参!(14)

「吹雪君、俺は君を咎めるために呼んだんじゃないから。 ね、鰻好きだって言ってただろ?ここのはすっごく美味しいから楽しみにしてて。」 「はっ、はいっ。」 固まる俺に、黒原さんが微笑みながら声を掛けてくれる。 が、そんなことをされたら、ほら、ニールさんの視線が……怖いんですけど… それに気付いた黒原さんの低い声が響いた。 「…ニール…邪魔するなら別室に行ってもらってもいいんだぞ。」 「………」 ぴくっ、と身体を震わせたニールさんが、俺を睨み付けるのを止めた。 黒原さんは相変わらず口元に笑みをたたえている。にっこり笑って人を斬るタイプの人だったのか… 黒原さん凄い。 社長(恋人)を手玉に取っている。 「アルコールは…止めておこう。吹雪君はまだ未成年だからね。 二十歳(はたち)になったらのお楽しみに取っておいて…俺達も遠慮しよう。ニール、いいな?」 「あぁ、構わない。」 仲居さんは、こんな殺伐とした雰囲気をものともせずテーブルにセットし終えると、顔色を変えることもなく「どうぞごゆっくりお過ごし下さいませ」と一礼して退室していった。 「さ、美味しいうちにいただこうか。 ニール、お前も接待で来たこともあるんじゃないのか?」 「そうだな。何度か利用させてもらったこともあるよ。 あぁ、もう匂いだけで美味そうだ。」 ニールさんの言う通り、蓋の隙間から漏れ出ているのか、香ばしく食欲を誘う匂いに生唾が止まらない。 遠慮なく、いただきます、と箸を付けたらもう止まらない。 「うっまぁーーーいっ!」 「ね、美味しいでしょ?身がふわっふわでそれでいてしっかりと香ばしい。 じゅわりと出てくる旨みが堪らないなぁ。」 「すっごく美味しいですっ!」 お重の半分くらい食べ進めた頃、やっと黒原さんが本題を切り出した。

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