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跡取り、見参(15)
その頃になると俺は漸く落ち着いてきて、味わって食べることができるような精神状態だった。
きっと黒原さんはそれを待っていたのだろう。
「…ねぇ、吹雪君…ひとつ聞いてもいいかな?」
きたっ
「はっ、はい、どうぞ。」
ドキドキドキ バクバクバク
「単刀直入に聞くけど…君…檸檬君のこと、どう思ってるの?」
ど直球の、どストライク!黒原さんって男前だ!
「…え!?…どういう意味ですか!?」
「恋愛対象として見てるのか、そうでないのか。」
「はあっ!?」
俺は、パカっと口と目を見開いたまま、黒原さんをガン見していた。
恋愛対象?
黒原さんは真っ直ぐに俺を見つめている。
返答次第ではタダではおかないという雰囲気が、ひしひしと伝わってくる。
俺は言葉を選びながら慎重に、でも正直に答えていった。
「…あの…“檸檬さんが”というよりも、こんな素敵な伴侶がいるなんて、社長が羨ましい、結婚っていいな、俺もこんな伴侶がいたらいいな、って思ってましたけど…
恋愛対象、というのはちょっと違うと思います。俺はそういう目で檸檬さんのことは見ていないですから。憧れ、ですかね…」
「そう…満にも何か言われたと思うんだけど、それについてはどう思った?」
「社長の仰る通りだと思いました。
自分の軽率な行動が誤解を生んだり、トラブルの元になるんだってことを身をもって知りました。
上に立つべき者としての覚悟が、まだまだなんだと。浮かれてる場合ではないと、気が引き締まりました。
俺の浅はかな行動で、主人である社長が気分を害されたのも当然です。
檸檬さんにも不愉快な思いをさせてしまったこと、お2人に改めて謝罪したいです。
できれば、黒原さんに取り次ぎをしていただければ心丈夫なんですが…何とかよろしくお願いいたします。」
俺は座布団から降りて、深々と頭を下げた。
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