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跡取り、見参!(17)
黒原さんは涙ぐむ俺を暫く見つめていたが
「大丈夫だよ。満が君を選んだんだから。
これからもいろんなことに打つかる。
公私どちらも含めてね。勿論、恋愛問題も。
転んで立ち直れない時だってある。立ち止まって動けない時だって。
でも、その度に振り返って二度と同じ過ちはするまい、と肝に銘じて頭に叩き込んで、知恵と勇気を振り絞って立ち上がるんだよ。
何度でも、ね。
…満もそうだった。
彼は純粋な直系だから、特に苦労したと思う。
自分の意思とは関係ないところで物事が進められていたり、彼を利用しようとする輩達がわんさかいたり…あ、これは今でも変わらない。
それでも逞しく身に付けた処世術で潜り抜けてる。
周囲の信頼できる人達にも恵まれてるけどね。
あ…自画自賛してる訳じゃないよ、念のため…
ニールだってそうだ。
生まれ持った才能や運もあるだろうけど、トップに君臨するにはするだけの見合った苦労もある。
だからこそそういう器になっていくんだ。
ね、ニール、そうだろ?」
優しい瞳で黒原さんを見つめていたニールさんは頷いた。
そして俺に向き直ると
「吹雪、あの満が後継者として認めたんだ。自信を持ちなさい。
君はこれからもっといろんなことを学ぶべきだ。
そして自分にとって必要かそうでないのか、見分け得る目を養いなさい。
若いうちは多少失敗してもいい。
俺だってまだまだなんだ。
でも、自分が“これだ”と思った信念は曲げてはいけない。
そして、大切なものは命を懸けてでも守らなければ…」
そこで言い止めると、黒原さんを見つめ、その手をそっと握った。
「ニール…」
ニールさんは頷いて、また俺に向き直った。
「満達に改めて謝罪したいのなら俊樹に仲立ちを頼むといい。
だが、上っ面の謝罪は見抜かれるぞ。
満が『そんなことは必要ない』と言えばそれまでだがな。あいつならそう言いそうだけど。」
俺はごくりと唾を飲み込んだ。
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