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跡取り、見参!(20)

…いつの間にか、黒原さんの姿が消えていた。 妙に気を回さないでほしい! こんな時に気配りのアンテナはいりませんっ! はぁ…恥ずかし過ぎる。 黒原さん、絶対俺達のことバカップルだと思ってるよ、きっと。 ため息をつくと、視線を感じた…満さん… 俺をじっと見つめる満さんの瞳は、酷く甘い。 うわっ、ヤバい。ロックオンされている。 「檸檬。」 ビクッ 甘い声音に、思わず身体が跳ねる。 「…はい。」 「…おいで。」 ぽんぽんと自分の膝を叩く満さんに逆らえず、吸い寄せられるようにゆっくりと近付いていく。 満さんを見下ろすように正面に立つと、その首に腕を回して向かい合わせに座った。 俺の腰に腕が絡み付き、きゅ、と抱きしめられた。 こつんとおでこをくっつけ合う。 「ふっ…ふふっ…」 「くっくっくっ…ははっ…」 おかしくて一頻り笑った後、唇が重なった。 じゅるっ、ちゅぅっ…じゅっ 口内を舐め尽くすように、満さんの舌が動いている。 後から後から唾液が溢れ出て、それを全て吸われている。 恥ずかしいのと、もっともっとと強請る気持ちが交錯して、頭がぼおっとしてきた。 幾ら社長室とはいえここは社内で、何時誰が入ってくるか分からない。 やっとの思いで満さんの首に回していた腕を解き、やんわりと肩を押してみた。びくともしない。 仕方なく拳でとんとんと肩を叩いた。 じゅる、と一際大きな音がして唇が数ミリ離れた。 「檸檬、どうした?苦しい?」 俺はかぶりを振って小さな声で答える。 「…だって…今仕事中で……」 「…そうだな。知ってる。」 「…だから、もう、お終い。」 「お終いで、いいの?」 「…満さん、ズルい…」 くっ、と笑い声を漏らした満さんは、俺の鼻先にひとつキスを落とすと 「あぁ、俺はズルい男だ。 檸檬…帰ったら覚悟しておけよ。」 とびっきりのズルい笑顔が目の前に広がっていた。

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