330 / 371
取越し苦労(2)
少し離れて電話に出ていた黒原さんが、慌ててこちらに飛んで来た。
「社長、檸檬君!すぐ○○病院へ向かって下さい!
御隠居様が運ばれたそうです。
診断は脳梗塞。
今検査中で、奥様がご一緒です。
発見が早く、命に別状はないそうです!
こちらの段取りは私が。
終わり次第すぐに私も病院に向かいます!」
「えっ!?御隠居様が!?
満さんっ!!!」
「檸檬、行くぞ。
俊樹、後のこと頼む。
結果が分かったらすぐに連絡する。」
「承知致しました。
今は社長の運転よりタクシーの方が良いかと…すぐに手配いたします!
車のキー、お預かりしても?」
流石黒原さんだ。
気持ちが動転している満さんも俺も、運転しない方がいい。
「俊樹、よろしく。」
「行ってきます。」
キーを預けて急いで1階へ。
「さっき急に目の前が真っ暗になって、左半身が動かなくなったらしい。
横になってもどうにも気になるので、これは不味いと救急車を呼んだら、即運ばれたんだそうだ。
典型的な症状が出てすぐに処置できたから、取り敢えず命に関わると言うことは今のところないそうなんだ……
日頃あれだけ健康に気を付けてるひとなんだが…いざとなると人間なんて脆いもんだな。」
「でも、気を付けてたからこそすぐ対応できたんだと思います。
そのまま放っておいたら…大変なことに…」
「…そうだな。」
正面玄関には、もうタクシーが着いていた。
受付嬢から「タクシー到着です!」と声を掛けられ、お礼を言って飛び乗った。
運転手さんにこちらから言うまでもなく「急いで○○病院へ向かいます。」と言われ、黒原さんの段取りの良さに感心していた。
俺がそっと満さんの左手に手を重ねると、満さんは「大丈夫だ」と、俺の手を握り返してくれた。
どうか、どうか何もありませんように。
お義父さんが無事でありますように。
ひたすらに願いながら、病院に着くまではどちらも無言だった。
ともだちにシェアしよう!