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取越し苦労(2)

少し離れて電話に出ていた黒原さんが、慌ててこちらに飛んで来た。 「社長、檸檬君!すぐ○○病院へ向かって下さい! 御隠居様が運ばれたそうです。 診断は脳梗塞。 今検査中で、奥様がご一緒です。 発見が早く、命に別状はないそうです! こちらの段取りは私が。 終わり次第すぐに私も病院に向かいます!」 「えっ!?御隠居様が!? 満さんっ!!!」 「檸檬、行くぞ。 俊樹、後のこと頼む。 結果が分かったらすぐに連絡する。」 「承知致しました。 今は社長の運転よりタクシーの方が良いかと…すぐに手配いたします! 車のキー、お預かりしても?」 流石黒原さんだ。 気持ちが動転している満さんも俺も、運転しない方がいい。 「俊樹、よろしく。」 「行ってきます。」 キーを預けて急いで1階へ。 「さっき急に目の前が真っ暗になって、左半身が動かなくなったらしい。 横になってもどうにも気になるので、これは不味いと救急車を呼んだら、即運ばれたんだそうだ。 典型的な症状が出てすぐに処置できたから、取り敢えず命に関わると言うことは今のところないそうなんだ…… 日頃あれだけ健康に気を付けてるひとなんだが…いざとなると人間なんて脆いもんだな。」 「でも、気を付けてたからこそすぐ対応できたんだと思います。 そのまま放っておいたら…大変なことに…」 「…そうだな。」 正面玄関には、もうタクシーが着いていた。 受付嬢から「タクシー到着です!」と声を掛けられ、お礼を言って飛び乗った。 運転手さんにこちらから言うまでもなく「急いで○○病院へ向かいます。」と言われ、黒原さんの段取りの良さに感心していた。 俺がそっと満さんの左手に手を重ねると、満さんは「大丈夫だ」と、俺の手を握り返してくれた。 どうか、どうか何もありませんように。 お義父さんが無事でありますように。 ひたすらに願いながら、病院に着くまではどちらも無言だった。

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