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取越し苦労(3)
黒原さんから届いていた満さん宛のメールには、何処に行けば良いのか病院の案内図が添付されていた。
目当ての階まで、院内の廊下を小走りで進んでいくと、椅子に蹲るように座っているお義母さんの姿が目に入ってきた。
「お袋!」
「満!檸檬君も来てくれたのね…ありがとう。」
「親父は?どんな具合?」
「処置が早かったので、血栓を溶かす薬を投与しているの。
心臓とかも、色々調べてもらってる。
あんなに健康オタクなひとなのに…
でも、救急車で運んでもらって良かったわ。
あなた達、仕事中なのにごめんね。」
「後のことは俊樹がしてくれてるから心配いらない。
それよりお袋、大丈夫か?」
俺はお義母さんを支えながら、ベンチに座ってもらった。
「はぁ…檸檬君、ありがとう…あなた達の顔を見たら、どっと力が抜けちゃった……うっ…」
「お義母さん…お義父さん、大丈夫ですよ。」
きっと堪えていた感情が溢れ出したんだろう、俺の腕に掴まると、ぽろぽろと泣き出してしまった。
俺は、ポケットからハンカチを取り出してお義母さんに渡し、背中をそっと摩り続けた。
「…っく…檸檬君、ごめん、ありがとう…私、自分ではもっと…強いと思ってたのに…」
俺は首を横に振ると、ぽんぽんと背中を軽く叩き、またそっと摩った。
お義母さんは俺の腕を握ったまま離さない。
確か…検査して破裂とかの重篤な症状がなければ、それも発症して4時間くらいなら手術ではなく薬で血栓を溶かしていくはず。
カテーテルも使ってないようだから…本当に初期で運が良かったんだろう。
あんな気丈なお義母さんが泣いてる。
どうかどうか、お義父さんを助けて下さい。
ふと、俺が満さんを見ると視線が合い、満さんが頷いた。
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