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取越し苦労(4)

ひたすらに無事を祈る沈黙の時間が過ぎていく。 処置を終えた医者(ドクター)に呼ばれて、フラつくお義母さんを支えながら説明を受けにいく。 「もう大丈夫ですよ。 早い対応のお陰で命拾いしましたね。 最初の薬物治療で十分な効果が出ています。 このまま回復を待ちましょう。 念のため、もっと詳細に心臓や内臓の検査もしておいた方がいいでしょうね。 暫く療養と検査入院していただきます。」 わっ、とお義母さんが泣き崩れた。 お義母さんを抱えたまま医者にお礼を告げる。 良かった。 本当に良かった。 お義父さん、助かったんだ。 安堵のあまり一気に身体の力が抜けそうになるのを必死で堪えて、去って行く医者の背中にもう一度一礼すると、満さんにそっと背中を摩られた。 「檸檬、ありがとう。」 俺は首を横に振ると 「本当に良かった…とにかくお義母さんを休ませてあげて下さい。 お義母さんさえ良ければ(うち)で… 準備を済ませたら、俺がお義父さんに付き添いますから。」 「…檸檬君…ゴメンね…ありがとう。嬉しいわ。今日は甘えちゃっても、いいかしら?」 「勿論です! …ちょっとガチャガチャにしてるけど…目を瞑って下さいね!えへっ。」 そこへ、息急き切って黒原さんが駆け付けてきた。 「ナースセンターで聞きました! 本当に良かった…… 病状もとても落ち着いているし、ここは完全看護なので、付き添いはできないそうです。 明日の朝、面会時間と同時に入れるようにお送りしますから、今日のところはこれで。」 「そうだな。ここのICUは術後家族ひとりなら面会できるそうだ。 お袋、代表で親父の顔見て来いよ。その方が安心するだろ? 俺達待ってるから。」 「…ありがとう…」 エレベーターで移動し、念入りに除菌したお義母さんは、インターホンでひと言ふた言話した後、二重扉の奥へと消えて行った。

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