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取越し苦労(7)

「えっ」 「うふふっ。檸檬君、うちの子になってくれてありがとう。 さ、行きましょう!満と俊樹君が待ってるわ。アイスも溶けちゃう。」 「お義母さん…」 スキップせんばかりにご機嫌なお義母さんの後を追って店を出た。 車に乗り込んで、頭の中でさっきの言葉を繰り返してみる。 『あなたで良かった。ううん、あなたが良かった。』 『うちの子になってくれてありがとう』 お義母さんは最初から俺を受け入れてくれたけれど、今、改めて言葉にしてもらって、本当の金山家の家族として認めてもらったんじゃないか、って、何だかじわじわと実感が湧いてきた。 嬉しい。 凄く、嬉しい。 俺は男で。跡取りも生めない。そんな不良物件の俺を手放しで受け入れてくれたお義母さん。 きっと、いや、絶対に揉めたんだろう。 そんな素振りも見せずに、俺のことを…… 突然、きゅ、と右手を握られた。 吃驚して満さんを見ると、満さんは前を向いたまま、俺の手をすりすり、ぽんぽん、そしてまた、ぎゅっ。 もう。 お義母さんといい、満さんといい、黒原さんといい…何でみんな俺のことを泣かすんだよぉ。 …涙が溢れるのを悟られないように、反対の手でそっと目元を拭った。 これ以上泣かないように、少し上向き加減で前を見ると、潤んだ目に映るのは、煌びやかな街の店々の灯り。 窓ガラスに流れていくキラキラに見送られ、優しい家族と同じ空気を共有していた。 エレベーターの中で… 「俊樹、悪いが明日の調整頼む。 病院へは俺も行くから、送迎は不要だ。」 「はい。承知いたしました。 何かありましたらご連絡を。」 「俊樹君、丸投げして悪いわね。 でも多分もう大丈夫だから。」 「いいえ。奥様もお疲れでしょうから、ゆっくりなさって下さい。 会社のことはお気になさらず。」 「黒原さん、俺まで申し訳ありません。 落ち着いたら頑張りますので!」 「檸檬君、こちらのことは俺に任せて。 今はご家族のこと1番に考えて、ね?」 「ありがとうございます!」

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