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取越し苦労(10)
お義母さんと2人っきり。
何だか気不味いなぁ…満さんと言い争いみたいになっちゃったし…お義母さん、気分悪くされてないかな…
面と向かって視線を合わすことができずに、ちらちらと盗み見していた。
すると、お義母さんは俺の横にやって来ると、両手で俺の手を握ってきた。
うわっ
吃驚してお義母さんを見つめていると、お義母さんはにっこりと微笑んだ。
「檸檬君。私、あなたのこと、大好き。
私のために、ってことも分かってるのよ。
気を遣ってくれて本当にありがとう。
あなたの優しい心が大好きだわ。
今晩は甘えちゃうけど、色々と考えなくちゃならないことがあるから、明日からは、夜1人でいられる空間を選ぶの。だからね、ホテルで泊まりたいのよ。
私もここにいたい時にはそう伝えるし、その時はお世話になるわね。
その時にはよろしく。
満はあなたのことを良く見てる。
あんな子だけど、これからもよろしくね。」
「お義母さん…」
そこへ満さんが戻ってきた。
「お袋、先に入れよ…って…お袋、俺の檸檬の手を握って何やってんの!?
はい、檸檬返して。回収っ!」
満さんはガルガルとお義母さんを威嚇して俺を引き剥がすと、すっぽりと後ろから抱き込んだ。
「みっ、満さんっ!」
「ほら、今日は疲れただろ?ゆっくり風呂に入って、少しでも早く休んだ方がいい。」
「そう?じゃあ遠慮なく。
檸檬君お先にいいかしら?」
「はい、ぜひそうして下さい!タオルとか準備してますから使って下さい。」
「ありがとう。」
お義母さんは、ひらひらと手を振ってバスルームに消えていった。
「…あの人は一応TPO弁えてるし、好き嫌いがハッキリしてるし遠慮しない。
だから、気を遣わなくてもいいんだよ。
まぁ、檸檬にとっては、そういう訳にはいかないのかもしれないけど。」
満さんは俺の頭を撫でながらそう言った。
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