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取越し苦労(11)

満さんはソファーに座り、よいしょ、と俺を横に抱え直した。 俺は慌てて抜け出そうとする。 「みっ、満さん!お義母さんがっ!」 「大丈夫。暫く出てこないよ。 檸檬、今日は本当にありがとうな。 お前の存在は大きい。改めてそう思った。 お前がいてくれてありがたかった… お袋も『檸檬君が側にいてくれたから落ち着いた』と言っていたよ。 流石に最初は取り乱してたみたいだけど、もういつものお袋に戻ってる。 ああ見えても、この金山を支える核の1人だからね。 大丈夫かと密かに心配していたんだが、取越し苦労だったみたいだ。 親父が万が一の時はどうするか、お袋はお袋で粗方指示されてるみたいだけど、現実的になったら逆に冷静になったんだろうな。 あー…女は強いな。 俺の方が慌てちゃって…恥ずかしいよ。」 俺の胸にすりすりと、大きな猫みたいに頬を寄せてくる満さんの頭を撫でながら労った。 「満さん、お疲れ様でした。本当に心配でしたよね。でも、命に別状がないと聞いてほっとしました。 …俺は何もしてないですよ。 何もできなくて歯痒い思いをしてました。 だから、その分お義母さんに…と思ってたんだけど…」 「檸檬の気持ちは十分伝わってる。 お袋が何か言ってきたら手助けしてやってくれ。頼む。」 「はい!何時でも!」 満さんは微笑んで頷くと、そっとキスしてきた。 お義母さんがいつ現れるか分からない状況で、頭の一部分では『ダメ』だと拒否しているのに、身体が言うことを聞いてくれない。 それどころか、満さんの首に腕を絡めて覆い被さるような体勢になっている。 [ばか、檸檬。何やってんだよ!] 鼻から抜ける甘い吐息が次第に艶を帯びてくる。 [ダメだ。これ以上はダメだ。] 遠くでパタン、ガチャ、という音が聞こえた。

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