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取越し苦労(13)

「幾ら家を背負う者だとしても…正直、私は満が不憫でならなかった。 満は…中学生の頃だったかしら、まるで大人のように振る舞うことが多くなってきてね。 親である私達にさえ、全く本心を見せなくなっていったの。 そんなあの子が…檸檬君の前では“本当の満”に戻れるのね…檸檬君のお陰よ。本当にありがとう。 檸檬君、あの子を好きになって、愛してくれてありがとう。 これからも、どうぞよろしくね。」 「お義母さん…俺はどんな満さんでも大好きなんです。 偶には喧嘩もするけど… でも、でも… 満さんの子供を生めなくて……ゴメンナサイ… 俺、男で……ゴメンナサイ…」 そこまで言うと、泣きそうになって俯いた。 心の隅に残っていた、小さな鋭い棘。 ふとした拍子に、チクチクと胸を刺す棘。 考えないように、考えないようにしていたけど、やっぱり俺が1番気になっていたこと… 吹雪君と会って、その棘が知らず知らず大きくなってきていた。 下を向くと、尚更涙腺は緩んでしまうのか、 ぽた…と涙がお義母さんの手の甲に落ちてしまった。 「檸檬君…」 お義母さんは優しく俺の名前を呼んだ。 その声は柔らかくて温かくて、満さんと同じ声音だった。 「私達はね、あなたが男であろうが女であろうが、どっちでもいいの。 満があなたを選んで、あなたもそれに応えてくれた。 それ以外に何か必要かしら? 人道に反するって怒る人もいるかもしれない。 でも、私にとっては満が幸せなら何の障害にもならないことなの。 言いたい人には言わせておけばいい。 そんなもん、捻り潰してやるわ。 男女のカップルだって、どんなに望んでもそれが叶わない人達もいる。 望まない命を授かる人もいる。 ひとの人生なんて…歌にもあるでしょ? 『人生いろいろ』なのよ。 檸檬君、『ゴメンナサイ』は、もういらない。 満の、私達の側で笑っていてほしいの。」

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