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取越し苦労(14)
この女性 は…
何て優しくて何て細やかで
両手を広げてゆったりと包んでくれる懐の大きな、大地のような…
あの大きな家を表に出ない後ろで束ねるだけのことはある。
こんなお姑さんのいるお家にヨメに来れて良かった…
俺は嬉しくて、お義母さんの顔を見つめてポロポロと涙を零していた。
「…お義母さん、俺、笑って側にいてもいいんですか?
役に立たないかもしれないんですよ?」
「ふふっ、何言ってんの、檸檬君。
それでいいの。それでいいのよ。
私、あなたの笑顔が大好き。」
「お義母さん……」
お義母さんは、俺の頬の涙を何度も何度も拭ってくれた。
「満に見つかったら叱られるわ。
さ、泣き止んでね!」
そう言うお義母さんも泣いていた。
「えっ、檸檬!?…お袋っ!檸檬泣かせて何やって……うぇっ、何でお袋まで泣いてんの?
どうした?何があった!?」
「違うんですっ!泣かされた訳じゃないんです!お義母さんが優しくって、俺…」
「満、あなた本当にいい子に巡り会えて良かったわね…」
「何だかよく分からないけど…まぁ、2人とも落ち着いて。」
俺とお義母さんは顔を見合わせて泣き笑い。
満さんは、俺達を交互に見ながら困惑している。けど、喧嘩してたんじゃないらしいと分かって、ホッとした顔してる。
「檸檬君、あなたもゆっくり入ってらっしゃい。
一緒にアイス食べましょう。楽しみに待ってるわ。」
「はい!じゃあ、行ってきます!」
俺は満さんに“大丈夫”の意味を込めてウインクしながら、横を通り過ぎた。
「檸檬…」
満さんの呟きが背中を追い掛けてきたけど、そのまま何も言わずにバスルームに飛び込んだ。
鏡に映るのは、泣き腫らした顔。
泣くのはお終い。
今頃、満さんはお義母さんから俺達が泣いてた説明を受けてるだろう。
少し…ゆっくりと温まってから……3人でアイスを食べよう!
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