343 / 371
取越し苦労(15)
2人がいるリビングに戻るのは、泣いた後で何となく気不味いけれど……
ドアから隠れるように顔を出した瞬間
「檸檬!アイスが待ってるぞ!」
と満さんが飛んできて抱きしめられた。
「ちょっ、まっ、お義母さんが」
腕を突っ張りながら小声で言うと
「分かってる。少しだけ。」
と、耳元で同じように囁かれ、逆らえなくなって動きを止めてしまう。
お義母さんは俺達に背中を向ける形で座っているから、俺達のことは見えない。
俺を抱きしめたまま、満さんが叫んだ。
「お袋ぉ〜、バニラとチョコとラムレーズンとどれにする?」
「バニラ!」
「OK!檸檬はチョコだな?」
満さんは俺にキスをひとつ落とし、手を繋ぐとキッチンへ連れて行った。
「檸檬、スプーン持って行って。」
言われた通りに俺はスプーンを。
満さんはアイスを持ってソファーに座った。
「お待たせしちゃってごめんなさい。」
「いいのよぉ。ゆっくりできた?」
「はい!ピッカピカに磨いてきました!」
ブフォッ
「いやだぁ、満!何吹いてんの!
ティッシュ、ティッシュ!」
口に含んだアイスを吹き出した満さんのテーブルの前やカーペットを慌てて拭き取ったり、ダスターを持ってきて拭き直したり…と大騒ぎになった。
「…すまない…ちょっと、画像が…(モニョモニョ)」
「画像?」
「何でもない。ひとり言だ、気にしないで。」
「本当に、もう、何を想像したやら…満、しっかりしなさいよっ!」
お義母さんのその言葉でやっと理解した。
身体を『ピッカピカ』に『磨く』に、満さんが反応してしまったのだ。
いやいや、夜に備えて、じゃないですよ!?
別にそういう意味で言ったんじゃないんですからねっ!?
お義母さんがいるんだから、ソンナコトしませんからね、絶対に!!!!!
ともだちにシェアしよう!