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取越し苦労(17)

ふぅ…と大きく息を吐いた満さんは、俺の背中にこつんと頭をくっ付けた。 「分かってる…檸檬の言いたいことは十分過ぎる程、分かってるよ。 …でもさ、取り敢えず親父が大丈夫だと安心したら気が抜けて、何だか檸檬に甘えたくなっちゃってさ… いい年した大人が何やってんだ、って思ってるんだけど…幾つになっても親父は親父なんだよな… 嫌な思いさせてごめんな、檸檬。 明日もよろしく。お休み。」 俺の後頭部にそっとキスをすると、気配が離れていった。 ごそごそと布団に潜っていった満さんは、やがて静かになった。 俺は『お休みなさい』も言えずに動けなくなっていた。 そうか…そうだったんだ! 満さん、不安だったんだ! もし、もし万が一のことがあれば……自分を愛して育ててくれた肉親がいなくなるって考えたら…… それに、親族のこと、会社のこと……満さんに掛かる重圧は相当だ。半端なものではない。 それを俺は…単なる甘ったれだと…『お義母さんの前で恥ずかしいことしないで!』なんて一蹴して…… そっと身体を反転した。 いつもの距離より随分離れた所にある満さんの背中は、ちょっぴり小さく見えた。 満さん、ごめんね。 分かってあげられなくて、ごめんね。 こんな時だからこそ、支えなくちゃならないのに。 俺、自分のことばっかりで、満さんを突き放しちゃった。 俺はじりじりと満さんの背中に近寄ると、ぴったりくっ付いた。 「えっ!?檸檬!?」 やっぱりまだ起きてた。 「…満さん…ごめんね、ゴメンナサイ… 俺、自分のことばっかりで…ゴメンナサイ…」 満さんはゆっくりと俺の方に身体を向けた。 「檸檬は悪くないよ。俺が、んぐっ」 俺は思わず満さんの両頬を押さえキスしていた。

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