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取越し苦労(18)
何秒か
多分3秒間くらいだろうか
思いを込めたキスを送って、俺は満さんからそっと離れた。
満さんは《これ以上見開けない!》というくらいに目をまん丸くして、俺を見つめている。
おまけに口がぱかっと開いてる。
「ふふっ…満さん、そんなに目が大きかった?」
「檸檬、今…」
「うん。キスしたよ……さっきはゴメンナサイ。」
「いや、俺がお前の気持ちを考えてなかったから」
謝罪を告げようとする唇をもう一度塞ぐと、俺は満さんの胸に頬を寄せて擦り付いた。
満さんは面白いくらいにフリーズしている。
「…満さん…今夜はこうやって…寝ましょうね…」
トクトクトクトク
跳ねる心臓の音。
満さんのか、俺のか。もうどちらの鼓動か分からないくらいになっている。
慣れないことはするもんじゃないな。今頃になって恥ずかしくて堪らなくなってきた。
でも、そんなこと言ってる場合じゃない。
今夜は満さんを癒やして温もりを分け合って…
満さんが俺をきゅっと抱きしめた。
「檸檬…ありがとう…」
微かな身体の震えが伝わってくる。
それに気づかないフリをして、また逞しい胸に擦り付いた。
このひとはちゃんと眠れるだろうか。
明日は笑って過ごせるだろうか。
ちょっぴりの不安よりも、満さんを元気にしなければという思いの方が強くて、本当は抱きしめられているのに、充さんを抱きしめるような思いで目を閉じた。
窓ガラスに当たる雨音が聞こえてきた。
天気予報、当たりだったな。
パタパタと雨を弾く音が、ザァーッという音に変わり…やがて本降りになったようだ。
遠くで雷も鳴っている。
「…檸檬…お願いが…」
「はい。」
「俺を…抱きしめてくれるか?」
「はい!」
俺はもぞもぞと上に伸び上がり、満さんをそっと抱きしめた。
「アリガト」
満さんがまるで幼児のように見えた俺は雨音を聞きながら、ありったけの愛を込めて抱きしめると目を閉じた。
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