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取越し苦労(20)
「あ…そろそろ満さんを起こしてきます!」
「そう?ゆっくりでいいからね。」
何だか嬉しそうなお義母さんに『?』が頭に浮かんだが、湯気がほこほこの美味しいうちに、満さんにご飯を食べさせたくて寝室に向かった。
カチャッ
そっと覗くと、満さんの肩が僅かに規則正しく動いていた。
まだぐっすり眠ってる。
起こすのかわいそうだな…どうしよう…
枕元にそっと座って起こそうかどうしようか迷っていた。
はぁ…起きてても寝ててもイケメンって…
睫毛長ぁーーっ!
俺、いつもこの顔にキスされて囁かれて……
「百面相はそれで終わりか?」
突然満さんの声がした。
「ふえっ!?」
「檸檬、おはよう。
人の顔を眺めてるかと思えば、赤くなったり真顔になったり笑ったり……
起こしに来たんじゃないのか?
いい匂いがしてきて目が覚めてたんだ。」
「満さんっ!見てたのっ!?
見てたんなら声掛けて下さいっ!!!
あぁっ…恥ずかしい……
…おはようございます。
お義母さんが俺より早く起きて作って下さってて…美味しいうちにいただきましょう!」
「檸檬が起こしてくれたら起きる。」
「???手を引っ張ればいいですか?」
「そうじゃない。」
「じゃあどうすれば?」
満さんは人差し指で自分の唇をトントンと叩いた。
「キス。」
出た。新婚さんのベタなヤツだ。
いつもしてるけど…今日は近くにお義母さんがいる。
キスした後、どんな顔して会えばいいんだ。
『あなたの息子さんとチューしてきました』
無理。
無理無理無理。
「…今日は無理です。」
「何で?いつもしてくれてるだろ?」
「…キッチンにお義母さんがいらっしゃるし…
どんな顔して会えばいいのか…気不味いです。
ほら、ワガママ言わないで起きてください!
お味噌汁冷めちゃいます!」
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