353 / 371
取越し苦労(25)
困ったな…いつもと違う満さんの様子に戸惑ってしまった。
珍しく相当メンタルをやられてる。
大概なことは受け止めて手際良く進めていくのに。
きっと、張り詰めた糸がぷつりと切れちゃったんだ。
不安な気持ちは、まだ解消されないのだろう。
ホントは、ずっとこうやってくっ付いて、満さんの気の済むようにさせてあげたいのだけど…
お義母さんがいるから……2人っきりで過ごすような訳にはいかない。
どうしよう…と思っていると、キッチンからお義母さんの大きな声が聞こえてきた。
「満ぅー!檸檬くぅーん!
私買い物があるから俊樹君と先に行くから!
今連絡が来たからもう行くわね!
行ってきまぁーす!!!」
俺達と顔を合わすこともなく、それこそドタバタドタバタと床を走り回る音がしたかと思ったら、やがてそれは無音になった。
お義母さん、俺達に気を遣ってくれたんだ…
黒原さんまで巻き込んで……
満さんは俺を抱きしめたまま、無言で動かない。
俺は満さんの頭を撫で
「苦しいから少し腕を緩めて?」
とお願いした。
すぐに少し緩めてくれた満さんの方に向き直ると、俺から抱きしめた。
満さんは頭を俺の胸に擦り付けて甘えてくる。
まるで大型犬に戯 れつかれてるみたいだ。
頭や背中を摩り、満さんが落ち着くまでそうやっていた。
どのくらいそうしていたか…
「…檸檬、アリガト…」
視線が合った時には、もういつもの満さんに戻っていてホッとした。
幾ら成人男性でも、甘えたい時だってある。
俺だってそうだ。
甘える相手は心許した…最愛のパートナー…
「…満さん、俺はどんな時にでもあなたの側にいます。
だから、安心して……愛しています。」
そして、思いを込めて優しく唇にキスをした。
ともだちにシェアしよう!