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取越し苦労(25)

困ったな…いつもと違う満さんの様子に戸惑ってしまった。 珍しく相当メンタルをやられてる。 大概なことは受け止めて手際良く進めていくのに。 きっと、張り詰めた糸がぷつりと切れちゃったんだ。 不安な気持ちは、まだ解消されないのだろう。 ホントは、ずっとこうやってくっ付いて、満さんの気の済むようにさせてあげたいのだけど… お義母さんがいるから……2人っきりで過ごすような訳にはいかない。 どうしよう…と思っていると、キッチンからお義母さんの大きな声が聞こえてきた。 「満ぅー!檸檬くぅーん! 私買い物があるから俊樹君と先に行くから! 今連絡が来たからもう行くわね! 行ってきまぁーす!!!」 俺達と顔を合わすこともなく、それこそドタバタドタバタと床を走り回る音がしたかと思ったら、やがてそれは無音になった。 お義母さん、俺達に気を遣ってくれたんだ… 黒原さんまで巻き込んで…… 満さんは俺を抱きしめたまま、無言で動かない。 俺は満さんの頭を撫で 「苦しいから少し腕を緩めて?」 とお願いした。 すぐに少し緩めてくれた満さんの方に向き直ると、俺から抱きしめた。 満さんは頭を俺の胸に擦り付けて甘えてくる。 まるで大型犬に(じゃ)れつかれてるみたいだ。 頭や背中を摩り、満さんが落ち着くまでそうやっていた。 どのくらいそうしていたか… 「…檸檬、アリガト…」 視線が合った時には、もういつもの満さんに戻っていてホッとした。 幾ら成人男性でも、甘えたい時だってある。 俺だってそうだ。 甘える相手は心許した…最愛のパートナー… 「…満さん、俺はどんな時にでもあなたの側にいます。 だから、安心して……愛しています。」 そして、思いを込めて優しく唇にキスをした。

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