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取越し苦労(29)
デート…デート…
俺達は“こんな関係”だから、普通の恋人や夫婦のように堂々と逢瀬を楽しむことなんて、殆どなかった。
「偶 にはいいだろ?」
振り向く満さんは悪戯が見つかった子供のよう。
「はいっ!」
自然と手を繋がれ、その手を振り解くこともなく店内へ入った。
「檸檬は何にする?新商品も出てるぞ。」
「あ…俺、普通のカフェオレがいいです。」
「何だ。遠慮しなくてもいいんだぞ?
それでいいのか?」
「はい。甘過ぎるとお昼ご飯が入らなくなりますから。」
「そうか…じゃあ」
満さんが注文を終え、出来上がりを待っている間に晩ご飯の相談をする。
「満さん、昨日もバタバタしてましたし、今夜は腕によりを掛けますから、うちでゆっくりお義母さんにご飯を…と思ってるんです。
お好きな物…何がいいでしょうか?」
「そんな気を遣わなくても…でもありがとう。
お前のそんな気持ちが嬉しいよ。
あ、ちょっと待ってて。」
満さんは俺の分も持ってきてくれ、奥のテーブルへ俺を促した。
「ありがとうございます!」
「お袋は…好き嫌いのない人だからなぁ…
好物は…肉だな。トンカツとか好きだぞ。」
「じゃあ、トンカツで決まりですね!
あとはサラダとスープと……」
「あー…もうお腹が空いてきた…
昨日は流石にダメだったけど、今夜も檸檬の美味い飯が食べれるのか。
こんな出来たヨメを貰って俺は幸せ者だなぁ。」
「満さん、褒め過ぎです。」
「くくっ。事実だから仕方がないだろう?
昼は…お袋連れて外に出るか。
気分転換も必要だろうし。まぁ、親父は寂しがるだろうけどね。」
「本当に仲が良いんですね。
…俺と満さんも、そう…なれるかな…」
「俺はそのつもりだが?」
「満さん…」
「檸檬…」
あああーーーっ!ここ、店の中だぁーーっ!
慌てて体を引いて、熱い抱擁が始まりそうなのを阻止した。
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