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取越し苦労(32)

それからもう少しだけ、2人の時間を大切にしてから…… 「お義母さん、遅くなってごめんなさい! クッション、コレにしてみたんですけど…どうでしょうか? こっちは、頼まれてた物です。」 「あら、これならいいわ!痛くなーい!! 頼んだ物も完璧よ! 流石檸檬君ね!ありがとう♡」 俺をハグするお義母さんを満さんが無理矢理剥がしていく。 「お袋っ!どさくさに紛れて何抱きついてるんだっ!? おい、親父っ!親父も何とか言ってくれ!」 「満、諦めろ…檸檬君は我が家のアイドルなんだから…」 「満さん、病室ではお静かに…」 「親父っ、何呑気なこと言ってんだよっ! 檸檬もそんな冷静に… お袋、こら、離れろっ!」 「あははっ!檸檬君、だーいすきっ♡」 みんなこれだけ元気なら心配いらない。 でも余りにうるさかったのか、看護師さんが飛んで来て爆弾が落ちた。 反省、反省。 他の病室の皆さん、ゴメンナサイ。 お義父さんはもう食事を済ませていたので、俺達は外にご飯を食べにいくことにした。 お義母さんに、今夜はトンカツにすると伝えるとガッツポーズをしていた。 余程好きなんだな。 お義母さんは 「檸檬君が作ってくれるなら、夜にガッツリ食べたいからお昼は軽くね。」 と言って、お昼はお蕎麦になった。 …お義母さんの目の前には、大きな海老天が3尾ついた天麩羅の盛り合わせとざる蕎麦大盛り、漬物と茶碗蒸しのランチセット。品名は…そう、『殿様ランチ』。うん、正に殿様クラスだ。 満さんが呟いた。 「全然『軽く』ないじゃん… …そうだった…このヒト、ヤセの大食いだったんだ…」 「ん、満?何か言った?」 「いいえ、別に。 檸檬…(お袋用にトンカツ最低2枚はいるぞ)」 ぶふっ 「(はい!お代わりできるようにしておきます。)」 2人でこそこそと耳打ちする。 お義母さんは海老天と格闘中で、俺達の会話に気付いていない。

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