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取越し苦労(34)
俯き加減で黙って歩く俺を見て、何かを察したらしい満さんが助手席に押し込んだ。
「…昨夜 はゴメン。
もう、檸檬の嫌がることはしないから。
後で愚痴でも罵声でも何でも聞くから、2人っきりになるまで待って。」
「はい。」
俺だってお義母さんがいる時に、喧嘩の再燃をするつもりはない。
それに、昨夜のことはもうケリがついてる。
仲直りしたもん。
だから、もうそんなマイナスの言葉は吐かない。
でも、何故かその後、沈黙……しちゃった。
ひと言『怒ってないから大丈夫』って言えば良かったのに、どうしてもその言葉が出てこなかった。
そんな俺の態度に、満さんは俺がまだ腹を立てていると思ったんだろう、それ以上何も言ってこなかった。
そんな空気を打ち破るように、お義母さんが嬉々として戻ってきた。
「お待たせ〜。
はぁ、美味しかったわねぇ。お腹一杯!
夜は檸檬君が作ってくれるご馳走が楽しみだわぁ。
満、悪いけど病院までお願いね。」
ひとりご機嫌なお義母さんを乗せて、車は走り出した。
「じゃあ、後でお邪魔するわね。
檸檬君、張り切り過ぎなくてもいいからね!」
足取り軽やかなお義母さんを見送り、車内は再び2人っきりになった。
「満さん、買い物をしたいから…」
「分かった。いつもの所でいいのか?」
「はい。お肉買わなきゃ。」
そこでプツッと会話が止まる。
俺はもう気にしてないのに、満さんがやけに気を遣ってるように感じた。
もう、怒ってないのに。
何か、こんな雰囲気、やだなぁ。
それでもあれこれと足りない物なんかを買って、部屋に戻ってきた。
さっさと冷蔵庫に入れて、時計を見た。
うん、余裕。もう少しのんびりしよう。
ソファーに腰掛けると、満さんが遠慮がちに横にやってきた。
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