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取越し苦労(35)

満さんは躊躇しているように見えたが、両手でぐっと俺の手を握ると、自分の胸に押し当てた。 「檸檬、お袋のデリカシーのなさ、許してくれ! 悪気はないんだが…思ったことをすぐ言っちまうタチで…腹には何にも持ってないから… その、昨夜(ゆうべ)のことは…俺も悪かった。 檸檬の嫌がることはしないように努力するから! だから、頼む!機嫌を直してくれないか?」 「…許すも何も…俺、別にもう怒ってないから… それに俺達、ちゃんと仲直りしたんじゃないんですか?」 「檸檬……」 「俺はこんなギクシャクした雰囲気は嫌です。」 「ゴメン…」 俺は満さんの肩に頭をくっ付け 「もう謝るのはナシで。 満さん…俺、ギュッてしてほしい、です。」 「檸檬…お前って…」 満さんは俺を抱き寄せると膝の上に乗せて、正面で向き合い、そっと抱きしめた。 そしておでことおでこをコツンとくっ付け呟いた。 「俺は檸檬じゃないとダメだ…」 「ふふっ、俺も満さんじゃないとダメですよ。」 ちゅっ 唇に軽いリップ音が鳴った。 ちゅっ…じゅるっ、じゅっ…ぐじゅっ 次第に熱を帯び激しくなる口付け。 鼻から逃す息が荒くなってくる。 俺は両手を満さんの首に絡ませて、首の角度を変えながら満さんの舌を受け入れた。 甘い。甘くないものなのに、甘い。 「んっ」 自分でも驚くくらいの甘ったるい声が鼻に抜ける。 「檸檬、もっと声を聞かせて。」 「ん…かわいくも…色っぽくもない、低い声なのに?」 「俺にとったら、最愛の伴侶の、最高に興奮する甘い声なんだ。 …聞かせろ。」 骨が折れそうなくらいにきつく抱きしめられ、唇を奪われる。 服の上から身体を撫で回されて、全身が性感帯になったみたいに、身体中ゾクゾクする。

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