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第2話
ネットで予約していたレンタカーをピックアップした。
僕は運転が好きで、バイトで稼いだ金で好きな車を買って、よくあちこちドライブしたものだった。
バリ島でも運転しているが、古くて、常にどこか壊れているような車だ。トヨタかダイハツだが、日本にない車種ばかり。マニュアル好きなのでそこは気にはいっている。が、あちこち壊れている上に足回りが完全にへたっていて、快適とは程遠 い乗り心地なのだ。
借りたのは、トヨタのプリウス。
カギを受け取り、運転席に座る。まだ新しい車で、新車特有 の匂いがする。「新車の香りスプレー」なるものがあるらしいから、それかもしれない。日本はいろんなものがあるからな。
トヨタらしい、そして新しくてきれいな内装にホッとする。
そして懐かしい。
しかし、これ、カギなの? 四角いけど…… どこに差すんだ?
全然わからない……
見送ろうと後方に立って待ち構 えているスタッフが不審 そうに運転席の方をのぞきこむしぐさをしている。
ああ、もうこれは聞かなければ絶対にわからないヤツだ。
僕はドアを開けた。冷たい空気が頬 にかかる。
「あの、これ、どうやってエンジンかけるんですかね?」
「えっ?!」
驚いたように小走りで寄って来たスタッフは、いよいよ不審感 満点の表情を浮かべながら「このボタンを押すんです」
と説明してくれる。
なんだか気恥ずかしくなるが、ここは聞くしかない。
その他、カギはどこへ置けばよいのか、とか、FMラジオやナビの基本操作もついでにあれこれ質問する。
「あの……、大丈夫ですかぁ?」
僕、ものすごく怪しまれている!
「ああ、すみません。
ずっと海外で旧型のマニュアル車を運転していたもので、新しい車の装備が初めてでね。
運転はずっとしてるから、大丈夫ですよ」
「はぁ、そうですか」
安堵がもろに伝わって来る。
まぁ、安心してくれたなら、よかった。
FM の周波数を、昔よく聞いていた81.3 J-WAVE に合わせて発車。
静かだ。かすかなエンジン音しかしない。
アクセルを踏み込むと、上品に加速する。
パーフェクトなオートマのシフト プログラム。久しぶりの感覚だ。
バリ島での、学生時代のようなシフトチェンジや車体がバラバラになるほどの唸るようなエンジン音を思い出し、自然と笑いがこみあげてくる。
同じ時代なのに、別世界だな。
走り始めると、道路わきに桜が咲いている。
ああ、桜の季節なのだ。忘れていた。
まだ3月なのに、今年は早めに咲いているのかな?
ラジオを聞きながら、とりあえず車を走らせる。学生時代よりも、音楽よりトークの割合が圧倒的に増えているなあ。もっと音楽をかけてくれよ……
学生時代にドライブした道を走ってみたくなった。
田んぼや川の景色はあの頃と変わらないな。
道路わきに埴輪 が並んでいるのが見えた。海へ続く道だ。初めて見た時は驚いたな。埴輪博物館ってのもあったっけ。
自然と頬 がゆるむ。
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