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第3話
小腹が空いてコンビニに寄ってみた。
おにぎりにしようか、サンドイッチにしようか。スイーツもいいな。久しぶりの日本のコンビニだ。
ああそうだ、ネットニュースで見た、噂の「コンビニコーヒー」なるものを飲んでみたかったんだ。
結局、水とサンドイッチを持ってレジに向かう。コーヒーを頼むと、紙コップを手渡された。
「ん!?」
……また、だ。全然分からん。
この空のカップを一体、どうすればいいんだ?
じっとカップを見て立ち尽くしていると、店員さんが不審そうに見る。
「あ、あの…… コンビニコーヒー初めてで。どうすればいいですか」
どんな反応をされるか若干不安だったが、質問を受けると一変して笑顔になり、カウンターを出て
「こちらです」
と案内してくれた。
そればかりか、他に客もなかったせいもあるのだろう、丁寧にもマシンにカップをセットして淹れてくれた。
なんと親切なんだ。日本も捨てたものではない。
「ありがとう!」
たぶん僕は、満面の笑みだったと思う。
熱いコーヒーをすする。なるほど、これがコンビニコーヒーか。
この日は空港近くのホテルをとっていたので、少し走り回った後、チェックインすることにした。
ここでもまた驚く。
フロント係がすべてアジア系外国人だった。名札はすべてカタカナだ。
流暢な日本語で対応してくれる。
聞くと、彼はベトナム出身だと言っていた。
外国人が多数働くようになっているというのは本当だったんだな。
まあまあのホテルをとったつもりだったが、部屋も風呂もやたらと狭く感じるのはバリ島と比べてしまうからだろう。
狭い狭い空間に、いろんな設備が十分すぎるほど組み込まれている。
浴室は更に狭い。
学生時代には贅沢だったユニットバス。ここまで狭いものだったかな。
便器フタには「清掃済み」と印刷された白い紙帯がかけられ、トイレットペーパーの先が三角に折られている。バリのホテルはなぜか清掃員が便器のフタを上げておきたがる。僕はフタは閉める派だからフタについてはいいんだけれど、そこまで必要か? 掃除しましたってのをわざとらしくアピールされているみたいで、なんだか息が詰まりそうだ。
熱いシャワーを浴びて、妙に丈の短い、浴衣ともバスローブともつかない備え付けの寝間着をまとう。糊が効いて、これまた、ちゃんと洗濯してますと押し付けられているようで、何だか落ち着かない。
それでも移動の疲れのせいだろう、やたらと幅の狭いベッドに沈み込むように眠った。
翌朝早めにチェックアウトして、改めて学園都市に向かう。
同じような小売りチェーンの路面店やファミレス、コンビニ、住宅が並ぶ街や、田園風景をいくつか抜けて走ること数時間。
道路には落とし穴のような穴ぼこもないし、犬も飛び出してこない。
野獣の群れのようなバイクの大群もない。
道幅も路肩も十分すぎるくらいゆったりしている。
なんて走りやすいんだ。
左右から出てこようとする車は、みんな丁寧に停止してくれる。まるでVIPじゃないか。
走っているうちに、神経が脳内からリラックスしてくるのを感じる。
車も快適だ。
ああ、なんて楽しいんだろう。
そうだ、僕は、ドライブが好きだったのだ。
そんなことさえ、忘れていた。
次第に懐かしい景色が広がってくる。
街路樹の続く大通り。
ここも桜が咲き始めている。
木のサイズがひとまわり違うかな。大きくなっている気がする。
当たり前か。ずいぶん経つんだもの。
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