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第5話
ヒョイっと窓からのりだしてこちらを向いた彼は、あの頃と変わらない輝くような笑顔を投げかけてきた。
あの頃と同じだ。
心臓がどんっどんっと音を立て、鼓動が早くなる。
僕は気付けば車を降りてアパートの鉄階段を駆け上っていた。
就職したのではなかったのかと聞くと、研究でまた戻って来たのだと言う。
昼飯がまだだと言うので、いつもの角の弁当屋まで一緒に歩いてのり弁を買い、コンビニでチューハイを買って部屋で食べた。
こんなに狭かったかな。
まだこのロフトベッド使ってるんだな。
まだこたつ出してんのか、確かにまだちょっと寒いもんな。
「夕飯はカレー作るよ」
とセージが言う。
狭いキッチンで、小さな一口コンロで。
そういや昔も作ってくれたよな。
僕はこたつに入ったまま、あれこれ他愛ないおしゃべりをする。
空港からここに来るまでのことを、いちいち詳しく話すと、セージは声をたてて大笑いする。
楽しい。
ちょっと迷っちゃったけど、来てよかったよ。
だんだん、カレーのいい匂いが部屋に広がって来る。
こんな幸せな時間は久しぶりだ。
「ハイ、できたぞ!
ミチル、誕生日おめでとう!」
えっ? あっ、そうだ、
今日、僕の誕生日だった。すっかり忘れてた。
「セージ、よく覚えてたな! ありがとう」
「そりゃ覚えてるよ。だからカレーの材料買って待ってた。約束したろ? 誕生日にカレー作るって!」
なんだ、それ。そうだったっけ? 嬉し過ぎるじゃないか。
両肩が、心臓も、ギューッとなって涙が込み上げてくる。
そんな約束、忘れてた。
堪えようとするのにボロボロ涙をこぼしながらスプーンを口に運ぶ。
ああこれじゃ味が分からない…… ってこともなかった。
「セージ、嬉しいけど、不味い……」
「えっ、ホント? あれ?
ホントに??
……あ、ホントだ! 不味いっ! おかしいな、なんでだろ?」
慌てまくるセージ。可愛いヤツだ。
笑いが込み上げてくる。
「おい、カレー不味いとか、珍しいだろ!?」
「おっかしーなぁ! いつもは失敗しないのに!」
2人、顔を見合わせて大爆笑になった。
不味い不味いと言いながら、カレー完食。
「風呂入ろう。一緒に入ろうぜ」
「入浴剤、どれがいい? 草津の湯か?
ミチルは草津温泉が好きだもんなぁ。
はい、コレな!」
何もかもあの頃と同じだ。
あたたかい浴槽なんて久しぶりだ。
気持ちいい。
狭い空間で、狭い浴槽に順番に入りながら他愛ないおしゃべりをする。
心が芯まであたたまる。
こんな幸せな時間は久しぶりだ。
そういえば今晩は、都内に住む弟の家に泊まる予定だったんだ。今日は友人宅に泊まると連絡入れとかないと心配するだろう。
空港で買った SIM カードが早速役に立つなと思ったが、電話がつながらない。
仕方ない、メールでいいか。
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